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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十一話 3人寄ればももんじゃの知恵とか何とか
「お、ようやく姫様のお目覚めだな。三日も寝てたんだぞ。ほら、水飲めよ。気分はどうだ? 落ち着いたか?

うん、ってお前声出てねーぞ。あーって言ってみ? あーって。ん〜やっぱり出ねぇな。ま、いっか。

そんな事よりメシ作ってやったぜ。食え〜。
何ぃ? 食べたくないだぁ? いーや駄目だ。
これ食って良くなって、早く出発するんだからよ。何たって俺らはパーティーだからな〜4人で一組!! まぁ俺も休めたから調度良かったけどな。

ん? あぁ、ここは教会。
ったく、急に倒れやがってよ。アレンも大変そうだったなー。重そうだったしな〜。
お、何だ怒ってんのか? 可愛いヤツだな。頭撫でてやるよ。

うわっ何だ! 凄い熱じゃねーか。それで寒いのか? メラしてやろうか?
止めろってか。じゃあ取り合えずマント掛けといてやるよ。

あ、そうそう、良い情報があんだ。勇者の泉な、もう少し行った所にあるんだってよ。今度は間違いなさそうだ。
この教会は色んな旅人が泊まるらしくってよ。だからもう明日には楽になってるはずだから、頑張れよ。
それにお前まだ呪文使えるようになってねぇからなぁ。元気になったらすぐ練習開始だからな。

何つーかさ、俺は理論なんて難しい事は分かんねぇけどよ、何か思う事があるなら外に出した方がいいぞ? 自分に素直になって生きねーと呪文は使えねぇからなぁ。
……昔、俺も無理してた時があってよ。人の為、国の為、世界の為ーってさ。
あんときゃあ悩んだぜ。似合わないとか言うなよ。自分で言ってて恥ずかしいわ。

また呪文使えなくなんのは困っからな。俺は正直に生きるぜ。だからしなのも正直にな。どーもお前は溜め込むタイプに見えるし。
あぁ、長話したな、すまん。顔が赤いな。何? 水? よしじゃあ取ってくっからよ、ちょっと待ってろや」



「入るぞ。水を持って来た。
アレン? 食事しに行ったよ。まぁそう怒ってやるな。君の食事を作って腹が空いたんだろう。さ、飲めるか? 久し振りの美味しい水だ。ゆっくり、少しずつ飲んでくれ。

すまなかったな。私のせいで君にまで迷惑をかけてしまった。
ルビスの加護を受けていれば呪いもそこまで苦しくはならないんだがな……3人の呪いによる影響がこんなに強いとは思わなかったよ。

いつかこうなると言われた……? そうか、君も覚悟はしていたんだな。今しばらくは苦しいかもしれんが、明日までの辛抱だ。

ん、用という程でもないが……見舞いついでに髪を切ってやろうと思ってな。
長いと寝る時邪魔だろう。ん、安心してくれ。はさみの扱いには慣れている。

……何か話せ、か? そう言われてもな……そうだな。

髪を切るのと体に傷がつくのは似ている、といつか仲間が言っていた。不思議な事を言う奴だと私は思ったよ。髪に神経は無いのだから切られても痛くないはず。

何故だと私が問うと彼女は、痛くない代わりに私の心が切られてる感じがするからイヤだと答えた。月日を重ねて伸ばしてきた自分の決意や思いが無くなってしまう気がするらしい。
とても悲しそうな表情で言うものだから、切るのを止めようか? と言ったら怒られたよ。

何となく分かる、か……? 私には今でもさっぱり分からない。
でも切り終えた後に鏡を見せると急にニコニコし始めてな。髪を切られるのは悲しいけど、短くなったらまた新しい自分になれるから嬉しい。その新しい髪形が自分に似合っていたらもっと嬉しいと喜んでいたよ。変な奴だろう? 今でも彼女の気持ちは理解出来ない。

好きなのかって……? そういうのとは違うな。彼女は仲間だ。彼女だけ特別視する事はない。単に思い出しただけさ。
でも……もし君もそういう気持ちになるなら、私に分かるように教えてくれたら嬉しい。

よし、終わりだ。今鏡を持って来よう」



「しなのさん、鏡ですよーってどうしたんですか?!
あぁ、アレルさんがですか。え? そうですね……正直、似合いません。しなのさんはロングのイメージなんですよね〜何か。見ます? 鏡です。でもスッキリしましたね。

それでですね、しなのさん……せっかく首筋が涼しくなったようなのでこれでも付けてみてください。スライムピアス、いつかしなのさんが気に入っていたモンスターのアクセサリーです。
僕からのプレゼントです。うん、これは可愛いです、似合ってます。
え、どうしてかって?

…………

しなのさんは、帰りたいですか? 元の世界に帰りたいですか? 僕と一緒に、ずっと一緒にいませんか?
しなのさんの世界のことを知らない僕に、僕の世界の方が良いだなんて言えませんけど……けど、誰よりもしなのさんの事を好きでいられるとは言えます。

しなのさん、僕はしなのさんが好きです。最初に会ったその時から。今もドキドキしています。これからもきっと。
だから……だから僕と一緒にいてください。

……僕らしくない、ですか? そうですね、自分でも少し、そう思います。
実は……石版をある神殿に持って行くと元の世界に帰れるという噂があるんです。

この教会を訪れる人はなかなかに多いらしいのですが、石版のありかを知らないか、というような感じで、皆こぞって石版の話をして去って行くそうです。

その噂が本当なのかどうかわかりませんが、何の繋がりもない人達がこうも同じ話題を語るというのはおかしいと、ここの神父様が仰ってました。
僕らが彷徨っている間にその噂は広まったんでしょうか。

でも、その噂が本当なら、しなのさんはしなのさんの世界に帰れます。
勇者の泉へ行って呪いを解いた後、この世界異変の原因を突き止める旅に出ようと2人は言ってましたが、しなのさんがその石版を必要とするなら僕はしなのさんを手伝いたいと思ってます。

でも正直僕は嫌な仕事が待っている世界にしなのさんを帰したくはありません。だから今僕は僕らしくないんでしょうね。こうやって焦ってしまうくらい、僕はあなたが好きなんです。その髪形が似合ってる事でアレルさんに嫉妬してしまうくらいに、好きです。

こんな時に色々と言ってしまってすみません……もう行きますね。
おやすみなさい、しなのさん」
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