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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十話 呪われた関係 [2]
薄暗い森の中を進んでいた。
歩き続けてもう何日が過ぎたのだろう。
いつ襲ってくるとも知れないモンスター達を警戒しながら足を運ぶ。

しかしそれも機械的に足を動かしているだけで、何かのきっかけさえあれば止まってしまうような足取りだった。
言わば携帯の電池が残り一つの状態。
充電する事を許されないままに、しかし使用する事も止められない。
私達は疲れていた。

町だな……
じゃあ調達に行ってくるよ。

「あぁ、頼んだぜ。あったかいもんが食いてぇ」

アレンの言葉を背に、呪われた彼らは町に入ることを自分達から自粛すると決めた。
必然的に私が買い出しに行く役目となる。
戦闘であまり役に立てない私が唯一皆に出来る恩返し。
せめて呪文が使えれば良いのだが、まだ私は使えない。
すみません。おいくらですか?

「……」

声を掛けるとあからさまに嫌な顔をされてしまった。
あの……

「……やるよ」

いや、そういう訳には。お金ならきちんとあります。

「そんなお金なんていらないよ!! これもこれもやるから早く出てっておくれ!!」
  
店主のただ事ではない剣幕に押されて私は通りへと飛び出す。
振り返ると店主が素早く扉を閉めて鍵をかけるのが分かった。
何、だ……?

「おい! 何してる!!」

町の警護をしているらしき者が近づいてきた。
私は何もしていない。ただ買い物を――
そんな抗議を聞く耳持たず、男は私の腕をがっちりと掴んで無理矢理に引っ張った。
何をする……! 放してくれ、私は何もやってない!

聞く耳持たず、ズルズルと引きずるようにして町の入り口へと連れて行かれ、私はそのまま外へと突き飛ばされた。
そして起き上がる前に頭から液体をかけられた。
思わず男を睨む。
何をするんだ!!

「うるさい黙れ! 呪われてる分際で入ってきやがって!!」

な……に……?

「こんな世界になっちまったんだ! これ以上厄介事増やすんじゃねぇよ!」

男は瓶を私に投げ付け、町中へと帰って行った。
瓶は聖水を入れる一般的なものだった。
私が呪われてるだって?
そんな馬鹿な事があるものか……
私は、元の世界に帰りたいだけ、なんだ……

「しなのさん! どうしたんですか!」

あぁ……でもちゃんと食料は頂いてきたよ。

拭けよ、とアレフがタオルを差し出してくれる。
うん、大丈夫だ……

「一体何が……」

……私も、呪われてしまったみたいだ……

「そんなまさか……しなのさんにはルビスの加護がないから……?」
「呪いは呪いを呼ぶ」
「アレル、何でそれを知ってんだ?!」
「そんな事より急ぎましょう! 勇者の泉に行けば――」

呪われていると言われ、意識したからだろうか。
私の頭の中に何かが重くのしかかっている感覚がし始める。
寝て起きればスッキリすると分かっているあの疲れようとは違う。
その得体も知れないものが私の足をひざまつかせようとしている。
少しでも力を加えれば倒れてしまうだろう。

「――!! ――!!」

アレンが肩を貸してくれて、私を励ましてくれている。
大丈夫……大丈夫だ……
何とか返事をしようとするが、もはや声が出ているのかも分からない。
息するのが辛いし、体を動かすと神経から痛みが響いてくる。

気持ち悪い……頭痛が痛い……
私は失恋したあの時を思い出していた。
酔えない酒をあおり、悲しみを消そうとしたあの日。
流れる涙、締め付けられる心。
後悔の固まり、私を苦しめる記憶。
そういうものに引き込まれるように私はブラックアウト。
だんだんとアレンの声も聞こえなくなっていった。
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