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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十話 呪われた関係 [1]
湖での戦いを終えて無事に男を助けた後、私達のパーティーは4人となった。
新しく仲間となった彼の名はアレル。
アレルもまた呪われた身であり、その元凶は不幸の兜によるものだった。
何故かは分からないが、異常なまでにモンスターが彼に寄って来てしまうらしい。

モンスターに常に狙われてしまう事の危険性を考えてか最初は同行を拒否した彼だったが、
アレンとアレフは勇者だから大丈夫だと私が力説してようやく了承を得る事ができた。
アレルは私がいる事で余計に提案を受け入れる事を渋ったが、実際先の戦いで彼らの連携は見事なものだったし、勇者の泉に行けば呪いは解けるのだから同行しない理由はないだろうと思ったんだ。

しかしそれは案外甘い考えだったと後悔するのに二日とかからなかった。
今までは野宿をしていてもぐっすりと眠れていたが、4人となってからは一日たりとも熟睡出来た日はない。
寝ぼけ眼のままモンスターから逃げるという日常の訪れ。
アレルが集落に近づけないと言っていた理由がようやく分かった。
このまま町に入れば故意にモンスターを町に近づけさせてしまう事になるからだ。
ふかふかのベッドが恋しいよ。

「どうした? 寝れないのか?」

ん……最近整ってきた生活リズムがまた狂ってきたからかな。
それに少し疲れが溜まってるかもしれん。
アレルが他の2人を起こさぬ程度の声量で話しかけてくる。

「これを食べるといい」

……?

「命の木の実。体力がつくと言われている」

ふぅん。
と相槌を打ちながらダイヤの形をした殻を割り、黄色い実を取り出して口に含む。
……美味いな。もっとないのか?

「あるが……口に合わなくないのか?」

……おかしいか?

「いや、味覚の違いに言及しても仕方ない。けれど住む世界が違うというのはやはり大きいのだろう」

まぁ向こうでも私はおかしいと言われる事があったけどな。

「こんな事態に巻き込まれてる時点で十分おかしいと思うぞ」

アレルがくくっと少しだけ喉を鳴らす。
む、それはお互い様だろう?
私は怒ったように言うが、実際は安心していた。
あんなに禍々しい兜を被っていても、中身は人間なのだと再確認できたのだから。

「いや、からかった私が悪かった。しかし、まだ知り合ったばかりだというのにこうも話しやすいのは何故かな」

ふふ、営業スマイルでもしようか?

「君はそのままの笑顔でも素敵だ」

それは営業トークというものだよ。
アレルは私の言葉でまた笑う。

 「やはり美人と話すのは良い。それだけで気が紛れてしまう男の単純さのせいだろうが、良い。……と、こんな事を言うと怒られるか」

そんな事はない。
そう言えてしまうのが大人の証拠さ。
いいじゃないか、私は好きだぞ。
小さくなった焚き火に照らされてアレルの素顔が垣間見える。
肉厚ではない唇から、ふっとアレルの息が漏れる。
ふぅん、スルーされたか。
アレンだったら声を上げて笑うところなんだがな。

「君は……君からみて私はどういう人に見える」

唐突な質問だな。
揺れる炎をじっと見つめているアレン。
普段は見る事の出来ないその目の奥で何を考えているんだろうか。
彼の声色は凄く落ち着いていて、低音の響き具合が渋い。
顔の大部分を覆う兜のせいでアレルの表情は確認しずらいが、涼しめの細目は光を失ってはいないし、表情にも余裕が見受けられる。
青年時代の快活さが身を潜め、自分というものをよく知った大人の男という感じだろうか。
そしてそれに満足している。

「満足、か。そうだな」

アレルはこの世界で目覚めた時からずっと孤独な旅をしていたらしい。
助けてくれる仲間もおらず、状況も理解出来ない。
ただ多くの見知らぬモンスター達を相手にしながら彷徨い続けていたのだと言う。
何と言う精神力だろう。強い人だ。
けれど私と話しているにも関わらず、アレルの関心はどこか違うところにあるような気がした。
そう思ったのは何となくだけれど、悲しい気持ちになった。
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