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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第九話 モンスター強襲
いくつかの町や村を回り、ようやく泉があるという情報を得た私達。
昨晩は宿屋のベッドでぐっすりと眠れたから気持ちが良い。
朝食もしっかりと食べ、元気良く村を出発する事が出来た。

「そんでよ〜ローラがお姫様抱っこしろとか言いやがってよ〜 仕方なくやってやったんだよ〜重たいのによ〜 んでモンスターが来やがったからローラを放り出したんだよ〜 そしたら滅茶苦茶怒りやがってよ〜」

そんな話をしながら林を抜けると、泉というよりは湖に近いだろう場所にたどり着く。
アレンの話では洞窟の深奥に勇者の泉はあるらしいから、
ここではないだろう事はすぐに分かった。

「本当にたどり着けるんでしょうか……」
「あのジジイめ! 嘘つきやがったな!」

さすがに嘘つき呼ばわりは酷いだろう……

「この世界がどうなっているのか未だに未解明なのですから、誰にも責任はありませんよ」

異世界への召還か、リアルな夢物語か、はたまたタイムスリップか。
そのどれでも説明のつかない世界異変の原因が色々と噂されているようだった。
竜王の支配、邪教の布教、聖なるオーブの喪失、魔族の、教団の陰謀、
魔王の夢、天空城の墜落、石版の収集、賢者の捜索、等々。
様々な憶測が飛び交い、議論され、人々の話題を独占していた。
私もそれについては大いに興味がある。
それが分かれば私が帰る方法も分かるか――

「しなのさん!」
「下がれ!」

な、何、だ? 地震……?
ググッと地面が揺れ、不快感と不安感が一気に増す。

「来るぞ!!」

アレンとアレフが森の方に振り向き、武器を構える。
風も無いのにビリビリと木々が震え、2人の雰囲気が緊張したものに変わっていく。
周囲を警戒していると、私達が通って来た林道から1人の男が飛び出して来た。

「逃げろ!」

男は私達の姿を認めると持っていた剣を斜めに振り、危険を訴えかける。
一番に目に付くのはその不気味な兜。
近くに寄るまでもなくそれが嫌なものだと分かる。
男が一度振り返って後ろを確認した事で何かがいる事を理解する。
そういう事を観察できるくらいに一瞬辺りが静かになった後、
男の後ろからモンスターが視界を覆い尽くすくらい大量に姿を見せた。

「何だってんだよ!!」

アレンとアレフは少しの怯えも見せずにモンスター達と戦闘を開始した。
地を這うもの、空を翔けるもの、素早いもの、力強いもの、呪文を唱えるもの。
同じ種類の生き物がいないと言っていいくらいに多種多彩な群がりだった。

モンスター達の目標に私達が加わったようで、こちら目掛けて駆けて来る。
私はその光景に圧倒され腰が抜けたように座り込んでしまった。
本能をむき出しにして命を狙ってくる野性というものに生理的な嫌悪を覚えた。

「はっ!」

アレンの流れるような剣捌きに成す術なくやられていくモンスター。
コウモリ男の翼を落とし、豪傑熊の目を潰し、鎧剣士の剣を弾き飛ばす。
突出してきたモンスターだけを狙い、戦闘不能にできれば良いと考えてるのだろう。
余計な体力を使わないためにもそれはとても有効な手段だった。
そして攻撃する瞬間には次の目標に目をやっている。
モンスターの間を駆けて行く脚のバネが素晴らしい。

「食らえっ!」

力任せに敵を串刺し、攻撃呪文を唱え、殴りつけ、蹴り飛ばす。
宝箱モンスターを燃やし、一つ目巨人の腹を斬りつけ、スライムを握りつぶす。
多少の傷は気にもせず、ただただ真っ直ぐ突進していくアレフ。
彼の迫力だけで逃げ出してしまうモンスターもいるようだった。
その後を追いかけようとするのだけは止めて欲しいが、
荒々しくも怪物に物怖じしないその勢いが凄まじい。

「……」

そしてアレンとアレフと一緒に私を守ってくれるもう一人の男。
全体の成り行きを見、穴を埋めるようにして呪文と剣を使い分ける。
敵の層が厚い場所に雷を落とし、思わぬ攻撃をして来たモンスターを軽くいなす。
さらにアレンとアレフの足場を上手く確保したりして、サポートも上手くこなしている。
先程出会ったばかりだとは思えないほどにチームワークが取れている。
この人ならどんな人とでも上手く連携が取れるのではないかと思う。
攻守自在の名選手、という感じだろう。

「しなの! しっかりしろ!」

大きな口を開け鋭い牙で私に噛み付こうとした猿が目の前でアレフに斬られる。
猿の血が顔にビチャリと付着する。
そうだ……しっかりしろ……!
グイッと頬を拭い、立ち上がる。
薬草やらが入った袋を握りしめ、サポートに回る。
せめて足手まといにならないように。

私は必死にナイフを振り回し、聖水や斑蜘蛛糸を投げつけるしか出来なかったが、
男達は即興にも関わらず見事に互いを補い合い、モンスターを撃破していく。
しかしジリジリと詰め寄られ、とうとう水際に追いやられてしまう。
足首まで水に浸かった時、何かが絡みついてきた。
うわっ! 助けっ……!!

「湖のモンスターが!!」

水中に全身が引き込まれるが、溺れる前にアレンが助け出してくれた。
ゲホッゲホッ!! ゴホッ……!
す、すまない……

「チッ! このままやってもしなのが疲れるだけだぜ!」
「いったん逃げましょう! キメラの翼を!」
「いやダメだ。私は集落には近づけない」

何故か男が反対し、アレフが男を鋭い目で睨みつけた。

「あ? なら置いてくぜ?」
「それが一番だ。行け」
「行きますよ!」

え、ちょっと待――

と私が叫ぶ前にアレンがキメラの翼を空に放り投げる。
モンスター達の叫び声が遠ざかっていくのが聞こえ、私達3人はレーベの村へ舞い戻った。
辺りが急に静かになった。
怪我をした場所が唐突に痛みを訴えかけてきたのがとても不快だった。

「はぁはぁ……大丈夫か? しなの」
「いったん、宿屋へ……」

どうして……

「あ?」

どうして逃げたんだ?!
あの人死んじゃうじゃないか!!

「しなのさん! 行っては駄目です!」

いや、私は行くぞ。
このままじゃ私のせいだ。
私が弱かったせいで誰かが死ぬなんて!

「おいしなの! ちょっと待てよ!! お前が行って何が出来る!」

放せ!
そんなヤツだとは思わなかった!
勇者なら彼を助けようとするんじゃないのか?!

「しなのさん! 誰も助けないだなんて言ってませんよ!」
「そうだぜ。ほら、震えてるじゃねぇか。ちょっと落ち着けよ。逃げたのは足手まといなしなのを村まで送っただけに決まってるだろ」

……

「アレフさん……」
「うるせーな、分かってるよ。んじゃあ行くのか? もう助けてやらねーぞ」
「冗談ではなく、次は本当にあまりかばえないかもしれません。あの数を殲滅するには本気でやらないといけませんから。覚悟して戦って下さい」

……そうか、すまなかった。
早まったよ。

「まぁ俺らはパーティーだからな! 何するにも一緒ってヤツだ! のけ者にしようとして悪かった!」

いや私が弱いのは事実だからな……
アレフ、私に力を貸してくれ。

「あぁ、気合入れろよ?」
「しなのさん、絶対に死なないって僕と約束して下さい。しなのさんがいなくなったら僕は泣きます」

ちょ……分かったから抱きつくんじゃない……!
恥ずかしいだろ……

「ヒューヒュー! よっしゃ、行くぜ!」

その掛け声にうなずき、私達は湖目指して再び林道を走り出した。
ナイフを握りしめた手に力を込めて、もっと強くなりたいと願った。
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