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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第三話 新しい世界
アスファルトの道が恋しい2日目の朝。
アレンがこちらを気遣いながら道を進んでくれていたが、
私はとうとう道端に座り込んでしまった。

「大丈夫ですか?」

いや、足が痛い……
ミュールでこの道は、辛い。

「あぁ、赤くなってますね……可愛い靴なんですけど、すみません」

アレンが私の足からミュールを脱がせる。

「町に着いたら新しいのを買いましょう。それまで少し我慢して下さい」

そう言ってアレンは私に自分の背中に乗るように促した。

「いや、いい。少し休んだら裸足で歩くよ」

昨日から彼に頼ってばかりだった。
しかし私は何も返す事が出来ないから、その優しさを素直に受け入れられない。

「駄目です。綺麗な脚に傷がついてはいけません。それともし遠慮しているのなら、それは違います。僕はしなのさんと触れ合う事で孤独から救われているのですから」

孤独。
何も分からないこの世界で、私と同じようにアレンもそれを感じていたのだろうか。
私はアレンの肩に手をかけた。

「じゃあ、行きますよ」

昨日からアレンには恥ずかしいところばかり見せてしまってるな。
いけないいけない。もう少ししっかりしないと。
しかしな……
どうもアレンは違う世界に来たとは思えない程に慣れてると思うんだが。
でもそれを聞くのもどうかと思い、ただしっかりとしがみつく事だけを考えていた。

「着きましたね」

何だか騒がしい程に賑やかだな。
二時間ほどおぶってもらってようやく次の町に到着した。
しかしやはりと言うべきか、この町もアレンの知る場所ではなかったようだ。

「では僕は靴と宿の手配をしに行きます。しなのさんはここで待っていて下さい」

あぁ、すまないな。町の観察でもしてるよ。
町の中央広場にあったベンチに腰掛けて人々の様子を眺める。
何やらバザーのようなものを催しているようだった。
道行く人に誰彼構わず声をかけ、強引な接客をするガラの悪い男。
目の前に広げた商品を大事そうに一つ一つ磨いていく老人。
売り物よりも自身の容姿を見せ付けたいだけの女店主。
そして頭上を飛び交うパタパタという羽音。

……ん? 何だ?
その音の正体を確かめようと見上げると、
何やら黒い物体が私の頭を中心にクルクルと回っていた。

「キィ〜!」

……カラス?
いや、コウモリか。
にしては表情が豊か過ぎる気もするが。

そのコウモリは私が見ている事に気付いたようで、
私の顔の前でホバリングし、
いないいないばぁをするかのように左右の羽を広げておどけた顔を見せた。
いたずらが好きなのだろうか。
ふっ、面白いコウモリだな。

「こらドラオ! 知らない人を驚かしちゃあダメじゃないか! ゴメンな。勝手に飛び回るものだから……」

コウモリの飼い主らしき人物が私の方へ駆け寄ってくる。
いや大丈夫だ。コウモリを飼ってるのか……?

「ドラキーを知らないのか?」

私の世界にはいなかったからな。

「あぁなるほど……あ、こらドラオ! やめろwww」

怒られたのをちっとも気にしていない様子でコウモリが飼い主にじゃれつく。
よく懐いているな。

「ドラオは人を怖がらないからな。触ってみるか?」

コウモリを両手の上に乗せ、私の方へ差し出す飼い主。
無邪気そうな目をこちらに向けて、私を観察するコウモリ。
しかし私がコウモリの頭を撫でようとすると、
コウモリは私の方から目を背け、しまいには逃げるように飛び去ってしまった。

「あ……何て言うか、その……」

飼い主が私にかける言葉を探す。
……いや、いいさ。
私は昔から動物には好かれないんだ。

しかしあんな可愛いのと一緒にいれて羨ましいな。
どうやって仲良くなったんだ?

「え? いや、普通に友達になったんだけど」

そんな……不公平だ! 私とも友達になってくれ!

「えぇぇぇ……俺に言われてもな……」

私はただ夕暮れの空を見上げるしかなかった。
違う世界に来ても私は私のまま、か。
はぁ……
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