修士◆B1E4/CxiTwの物語



【暗黒の希望】 [2]

――――――――サントハイム王国――――――――

先生に休まる日はない。
今日も、何か高名な機関の最高責任者の一行が表敬訪問に来ている。
こちらから出向くときも同じ。国を跨(また)ぎ、たくさんの人と会うのだ。
合間に教会で行う演説は誰でも聞け、身分によらず、誰でも先生と話せる。

遠出の時には旅の扉という、世界に点在する瞬間移動装置を使うこともある。
使うと誰もが、床に吸い込まれるような感覚に辟易(へきえき)とする。
この『失われた古代技術』を解明する僕の試みは、ことごとく止められた。
古代の知的財産や天上の存在に対して、皆、畏敬の念を共有しているようだ。

つい先頃、僕らが設計した原動機がレオ王国で稼働を始めた。
名誉なことに初代国王、獅子王アミル生誕の地に設置されたのだ。
『多忙な』ペトロさんはそれを見ることは叶わないが・・・・・。

これらの装置の性能は、台数を経て全体的に改善しているが、
利用価値は魔法に比べてまだ低い。それに、これ以上を望むために必要な技術、
特に加工技術の解決に時間が要る。苦心の末作った設計図は、当分使わないだろう。
その設計図も、今ではおいそれとは持ち出せなくなってしまった。

慣れとは恐ろしいもので、自分が絵本や小説の中にいるような感覚は
最近ではほとんどなくなってきた。

・・・・・エンドールの新王、フレアネス十一世の使節が帰国の途につき暫く経つ。
理性的で野心家という評価は、よくない噂を生んでおり、
病弱だった先王の急死には彼が噛んでいるという噂も、そのひとつだ。
そういう話を聞くと僕は、自分が根付いているこの地上に、
政治的な謀略漂う王政主義の様相を改めて感じるのだ。


――――――――レオ王国 キングレオ城 王の部屋―――――――――

王は頭を抱えていた。

ソレッタ、サントハイム、リバーサイドヴィレッジが面する、世界の中心の海。
天空への塔や聖地ゴッドサイドがある小島を中心に据えるこの海は、
懐深い海、『オールドワン』と呼ばれている。
世界の創生はこの海から始まったとされているのだ。

主要な海の貿易は、今もスタンシアラ王国の力が強い。だから、
交易全体の活性化という名目の元、幾度も国益を吟味してきた彼らに
同じ鐵(てつ)を踏ませることは、並大抵のことではないのだ。

かつて、一匹の魔物がファン・モール学園への入学を申し出たとき、
時の王は世論の動向を注視し、この重大な決定を次代に託した。
当時はまだ、ピサロによる地上侵略の受難世代が健在であったのだ。
どうやら我々は、時期を間違えたようだった。

相変わらず強気のスタンシアラ。しかし最近、
極めて憂慮すべき行為の前兆を捉(とら)えたという関係者も出てきた。
もし何かあれば、国の生命線である極北の航路、通称『サザンクロス』を
スタンシアラに依存するガーデンブルグとバトランドは、
こちらに味方しないだろう。やはり、先代は偉大だったのだ。


―――――――――スタンシアラ王国 某所―――――――――

臣下「お褒めのお言葉、身に余る光栄にございます。
  完成品の試験も滞りなく完了致しておりますので、
  ご命令があれば、すぐにでも」

うねる洞穴の深部にぽっかりと空いた、広大な天然の空間。
それは、巌窟王の巨大な城。その入り江は水深深くにて、外界とつながっている。
壁の至るところに掛けられた無数の薄灯り。縦横無尽に張られた木や鉄の足場。
忙しなく動き回る働き者たちの声は、金属音や
何か大がかりな仕掛けを作動させる駆動音の響く中に。

ここはまさに不夜城。2年以上を費やしたこの作業の目的は、極めて効率的に
作業員の士気を鼓舞し続けたことで、予定より早く果たされそうだ。
この作業の本当の目的を、彼らはこれまでも、これからも知ることはない。
最後に彼らには、『確実』で『残酷』な処分が下される手筈になっているのだ。

何も持たぬ者たち。彼らを気に掛ける人間は、限りなく少ない。
岩肌の小さな洞穴から、国王が今も見下ろしていることも、彼らは知らない・・・・。


この後スタンシアラ王は、海軍の老将、『不沈の』アリアロス提督に密使を送った。
・・・・・・そしてスタンシアラ王国からレオ王国に、
領海不可侵条約の破棄を伝える文書が届けられた。


アーシュ
HP 17/17
MP  5/5
<どうぐ>携帯(F900i) E:旅人の服 ゾロフの靴
<呪文> ホイミ メラ