修士◆B1E4/CxiTwの物語



【レオ王国地方伝承定本7巻 月夜の魔導師】

海賊に乗っ取られた船の船室、ベジーは震える夜に目が覚めた。
月夜の窓の向こう側、ベジーは海の上に何か見た。

静かな波間を悠々歩く、白い服の男が一人。
窓を挟んでベジーの前まで、男は歩いてやってきた。

「あなたは だあれ?」
「私は月夜の魔導師。月夜に生まれた魔導師さ」

「どうして海の上を歩けるの?」
「それはねベジー、私が月夜の魔導師だからさ」

月を背にした魔導師が、ベジーに向かい手を伸ばす。

「さあさおいで、可愛いベジー。
 私に向けて、その手を伸ばしてみてごらん」

ベジーは窓に向かって手を伸ばす。
その手は窓をすり抜けて、海の上の魔導師の手に。
そうして彼女は、暗い船室抜け出した。

「どうして私も、海の上に立っているの?」
「それはねベジー、私が月夜の魔導師だからさ」


そして月夜の魔導師は、ベジーを見つめ語りだす。

「さあさ私の可愛いベジー、これから一緒にどこへゆこうか?」




静かな月夜の海の上、ベジーは姿を消してしまった。
後には何も語らぬ静かな波が、ただただ月に照らされていた。

編者:ホートー
(中央図書館所蔵)