修士◆B1E4/CxiTwの物語



【レオ王国地方伝承定本3巻 消えたアランドと不思議な洞窟】

遠い遠い昔のこと。
コーミズ村の北の川の、さらに北の山のふもとに、
木こりのブーンと、息子のアランドの二人が住んでいました。
二人は毎日、近くの山で、ときには魔物の相手をしながら木を切って、
薪にして近くの町で売ることで、細々と生活していました。

アランドが22歳になって、間もなくのこと。
彼が、父のブーンから少し離れて作業をしていると、
遠くの茂みの中に、見たことのない、大きな洞窟を見つけました。

アラン「父さん、父さん、あんなところに洞窟があるよ!」
ブーン「あれ!本当だ。アランド、こんなところに洞窟なんてあったか?」

二人は話し合って、洞窟を探検するために、中に入ってゆきました。

ブーン「魔物の巣かもしれん。気をつけろ、アランド」
アラン「わかってるよ、父さん。たいまつは切らさないし、安心して」

一本道の洞窟をどんどん進むと、奥の角から光が漏(も)れて見えてきました。

ブーン「何だ、あれは」
アラン「誰かが住んでいるのかな」

小声で話しながら角まで来て、二人は恐る恐る、その先を見ました・・・・・・・・。

アラン「父さん!」
ブーン「これは・・・・アランド!」

なんとそこは、輝く金銀財宝が床に積み上がる、大きな部屋だったのです。

アラン「父さん! これ、ほら、金貨だよ金貨!」
ブーン「こっちは宝石のネックレスだ!」

二人が驚きながら歩き回っていると、アランドが奥で何かを見つけました。
それは、作りが簡単でとても古そうな、小さな木箱でした。
そして箱のふたには、小さな文字で次の文章が刻まれていました。

『君の命のお値段の 勘定はもう終わったかい?
 お宝よりも価値あるものが この中には眠っているよ』

アラン「なんだろう父さん、この箱は」
ブーン「そんな小さな箱なんか、後でいいさ」

二人はその日、持てるだけの財宝を持ち、家に帰りました。
それからというもの、二人は、手持ちの財宝が少なくなると、
また財宝を持ち帰りお金に換えて、裕福な生活を送り続けました。
不思議なことに、宝をどれだけ持ち帰っても、財宝はいっこうに減りませんでした。



そして、何年もの月日が流れました。
父のブーンは木こりとして働いていましたが、
息子のアランドは、すっかり怠け者になっていました。

アランドには一つ、ずっと気になっていることがありました。
それは、財宝部屋の奥に置かれた、あの小箱のことです。
財宝を見飽きた彼は次第に、箱の中を見たいと、強く思うようになりました。


そしてある朝アランドは、父が起きないうちに
慣れっこの道を歩き、洞窟の中に入ってゆきました。
財宝部屋は、いつもどおり、金銀財宝であふれています。
アランドは、床に置かれた小箱を手に取り、箱のふたに目を向けました。

『君の命のお値段の 勘定はもう終わったかい?
 お宝よりも価値あるものが この中には眠っているよ』

アランドはいよいよ中が気になり、ふたを上に開けました・・・・・・・。



箱の中には、何も入っていませんでした。

アランド「なんだよ、空っぽじゃんか!・・・・・・・・・ん?」

ふとアランドは、箱の底に、ふたに刻まれた文章と同じような、
小さい文字の文章が刻まれているのを見つけました。

『君の命のお値段は 勘定させてもらったよ
 お宝よりも価値あるもの 今 眠りにつかせてあげる』

アラン「う、うわあーーーーー」

その瞬間、なんとアランドの体は、頭から箱に吸い込まれてしまいました!
そして周りの金銀財宝も、後を追うように、箱に吸い込まれていったのです!



ブーンは目覚めると、アランドがいないことに気づきました。
たまにアランドが一人で洞窟に行くのを知っていたブーンは、
息子に会いに洞窟へ向かいました。

見慣れた茂みの前に着いたブーンは、目を疑いました。
なんと、そこにあるはずのあの洞窟が、忽然と消えていたのです。
驚いたブーンは、息子と洞窟を探し回りました。
しかし、洞窟の痕跡も息子の姿も、ついに発見できませんでした。


それから何年経っても、ブーンの元にアランドが戻ることも、
あの場所に再び洞窟が現れることもありませんでした。

編者:ルビック=サン
(中央図書館所蔵)