◆IFDQ/RcGKIの物語

斬殺勇者 アリスちゃん!

タツミ「なんか今回は『埋め用』の番外編やれって」
アルス「あれ、俺はなんも台本もらってないぞ?」
タツミ「そうなの? 僕の方はさっき渡されたよ。まだ中身は見てないけど」
アルス「お前だけってことは、タツミの知られざる過去とか、そんなんじゃねえのか」
タツミ「そういえば今回はリアルサイドで撮影って言われたな。ひとまず指定スタジオに移動するね」
アルス「おう、行ってらっしゃーい」


アルス「でもなんで俺の出番ないんだろ?」

……バタバタバタ!!
???「きゃーん☆ 遅刻しちゃったお〜。タツミくんと一緒に行く予定だったのにぃ。すみませんそこのお兄さん、りあるさいどのすたじおって、ドコですかぁ?」
アルス「へ? ああ、えーと……あっち、だけど」
???「りょーかーい! 急がなくっちゃネ♪」
……バタバタバタ!!

アルス「い――いまの格好って……もしや……?」

   ◇

タツミ「すみません遅くなりましたー。着替え室ってどこですか? ってガクラン? 僕、中学も高校もブレザーのはずなんですけど……え、パラレル……? いや実は、どうせすぐ頭に入っちゃうから、まだ台本読んでなくて―――
(パラララ.....)


ちょ……………はい?
…………………なにコレ」


■前編■


第1話 斬殺勇者だよ! アリスちゃん!

 そりゃ確かに現実は厳しいものですし、「誰かゲームに出てくるようなスゴイ人物が、都合良く味方になってくれないかなぁ」なんて気持ちもあったことは認めますよ。
 でもあくまでゲームはゲームのままであるからこそ、心から楽しめるものだと僕は思うわけです。よく「異世界の英雄に会ってみたい」なんてアホな夢語るヤツがいますけど、別に僕はそういうのには、あまり興味はなかったんです。

 なかったん……ですけども!

「やほー、タ・ツ・ミ・く・ん♪ もう朝なんだよ☆ 起きないと遅刻しちゃうよーん♪」
 クリンクリンの可愛らしい声とともに、「彼女」が僕の布団をひっぱろうとします。
 ですが僕は16歳(花のシックスティーン)の健全な男の子でありまして、いかに普段は品行方正で通っている高校生でも、眠って起きたあとの身体に生じるごく自然な生理的現象にまで意識的に紳士な態度を貫くことは困難なのであります。
「ダメダメダメー! アリスちゃん! 今はお布団引っ張っちゃらめぇぇえ!!」
 僕は必死で(そりゃもう必死で)抵抗したのですが、なにせLv.99で「ちから」もMAX値255を余裕で誇っているアリスちゃんは、いともあっさり僕の秘密のベールを剥ぎ取ってしまったのでした。

「っもう、タツミくんのお寝坊さん☆ ほらほら、丸くなってないで起きた起きた〜♪」
「ダメだよやめてよアリスちゃん! ああ、首根っこをつかまないで!」
 握力も255(Kg)なんじゃないかというアリスちゃんが、布団の上でうずくまり、前の方(主に中心部)を懸命に隠している僕の後ろ首をむんずとつかんで、無理やり引き起こそうとします。
「ぐ、ごが…や゛め゛…ア゛リ゛ズちゃ゛………!」
 その瞬間、僕の延髄が「ベキェベキャベキャ」と潰れていくのが自分の耳にしっかり聞こえました。鼻と口からダラダラ血を流しながらガクリとのけぞった僕に、アリスちゃんは「きゃあ、大変ッ」とまるで「いやーんクッキー焦がしちゃったぁッ」みたいなノリで悲鳴を上げました。

「ゴメンねぇ、タツミくん! ベ・ホ・マ〜☆」

 ティロリロリロ♪

 おなじみの呪文とともにどこで鳴っているのか謎な効果音が響き渡り、プロレスラーがデモンストレーションで潰した空缶のようにひしゃげていた僕の延髄が、みるみる元に戻ります。
「おっはよ〜だよン、タツミくん♪ サワヤカなお目覚めだネ☆」
「全然サワヤカじゃないよアリスちゃん! 今キレイな川の向こうに死んだおじいちゃんが見えたよ!」
 ある意味サワヤカかもしれないと思いつつ抗議する僕でしたが、アリスちゃんはニコニコしたまま、空中にいくつか浮き上がった小さなフキダシには「?」が一個ずつ書いてあるだけです。
「と、に、か、く、ボクのスペシャ〜ルな朝ごはんも用意できて……」
 ふとアリスちゃんが言葉を途切れさせました。大きな愛らしい瞳がパチパチと2、3度まばたいて、僕の腹部からやや下の方に視線を向けて固まっています。

 あ。

「い……いやぁぁぁあ!!!」
 アリスちゃんは今度こそ掛け値なしの悲鳴をあげて、背中の「王者の剣」をジャキンと抜き放ちぃぃぃぃぃぃ!!!
「ぃぃぃ落ち着いてアリスちゃん! 朝なんだから仕方なqあwせdrfgtyありす!!!」
 ズゴバァ! と王者の剣が僕の胴体を真一文字に薙いでいきます。僕の上半身と下半身はそれぞれの方向にキリモミ状態で吹っ飛んでいき、押し入れのフスマに頭から突っ込んだ僕は再びキレイな川のほとりに立っていました。

 ティロリロリロ♪

 彼女の回復呪文で、ズルズルズルっと下半身がくっつきます。僕はぜぇはぁ言いながらフスマから這い出しました。
「またやっちゃったぁ。ゴメンねタツミくん。テヘ☆」
 茶目っ気たっぷりに舌を出すアリスちゃん。
「もう、アリスちゃん王者の剣はやめてって……」
 そこで僕は、なにかブニュっとした生モノめいた感触を足の裏に感じました。見ると、つい先日デパートの精肉コーナーの隅で見かけたカタマリの、もう少し血色のいいモノが転がっているではありませんか。
「ぎゃあぁぁあ!!! アリスちゃん、なんかしまい忘れてるよぉ!!」
 途端にゴプッと吐血した僕は、三たびキレイな川のほとりへといざなわれたのでした。


   ◇


 僕こと三津原辰巳は、南龍探高校1年生。ちょっとIQが200近かったりジャニーズ系のカッコカワイイ容姿だったりスポーツもそれなりにーみたいなところはありますが、ごく普通の男の子です。

 ところが昨日、なにかのきっかけでフッと昔のゲームがやりたくなり、幼少にハマっていたドラクエ3を始めたときでした。なんと「アリス」と名付けていた最高レベルの女勇者さんが、突如まばゆい光とともにテレビの画面から飛び出してきたのです!
「ピコピコピコ〜ン☆ ボクはアリス♪ キミを守るためにゲームの世界からやって来た、正・真・正・銘の、勇者ちゃんだヨーン!」
 そのとき僕は、具現化した彼女の強烈なボディータックルをまともに胸に受け、折れた肋骨が肺に刺さってのたうち回っていたので、彼女の口上の半分も聞いてあげることができませんでした。
「ああ! ごめんなさい! ベホマ〜☆」

 ティロリロリロ♪

 彼女が指を空中でクルリンと回すと、僕の胸腔で肋骨が所定の位置に戻っていきます。
「な、な、なんだぁぁああ!!!???」
 僕は循環器系が正常に働き出したと同時に手足をめちゃくちゃに動かし、とにかく彼女から距離を置こうと部屋の隅まで後退しました。

 目の前には、それはもう愛くるしい笑顔の少女が僕を見つめて小首をかしげています。
 ショートの黒髪には青い宝石が埋め込まれたサークレット。首周りから背中を紫のマントが覆い、その下には水色のチューブトップスと同色のミニスカート、足は黄色のスパッツで、土足ブッちぎりの革ブーツといういでたちです。
 ロリロリキュートな表情に似合わず、しっかりばっちり発育しているカラダ。しかも彼女がズイっとさらに近づいてきたので、トップスの上からタプンと揺れる渓谷がしっかり見おろせてしまいます。なんという絶景かな。僕はゴクリと唾を飲み込みました。

「実はキミは、大魔王ちゃんに狙われてしまったんだよネ」
 キャロリン♪とサウンドエフェクトがつきそうな可愛い声で彼女が言います。
「大魔王ってゾーマ? なんでゾーマが僕を……」
「でもノープロブレム!なんだヨ♪」
 僕の質問はサクッと無視してガッツポーズをキメるアリスちゃん。
「ボクが絶対にキミを守ってあ・げ・る・か・ら☆」

 もはや宿スレの定義など完璧にドコ吹く風です。
 それが僕とアリスちゃんとの、スイートでブラッディなファーストメモリーでした。

 朝っぱらから三度も瀕死にされての起床でしたが、遅刻もなにも今日は日曜日です。
 アリスちゃんは週七日サイクルの生活を知らなかったので、いつも通り学校があると思ったみたいでした。
「なぁんだ、今日はお休みの日だったんだネ! ……じゃあボクもお休みなさーい☆」
「ええ? 寝ちゃうのアリスちゃん!?」
 彼女はモゾモゾと僕の布団に潜り込むと(昨日は押し入れで寝たのですが戻るのが面倒になったようです)、「スピルル〜…ムニャ」と幸せそうな寝息を立て始めました。
 僕は深々とため息をつきました。僕は二度寝ができないタイプです(人生の大きな損失だと自分でも思います)。とりあえず顔を洗って朝ご飯を食べることにしました。

 リビングに行くと、アリスちゃんが言っていたスペシャ〜ルな朝ご飯が用意されていました。平たくて四角くて真っ黒な物体がお皿の上でおとなしく僕を待っています。デイン系呪文で一撃された食パンのようです。
 僕はこの炭水化物のなれの果てをリビングの隅にある「燃えるゴミ」に放り込みました。ふたたび燃やされる運命の食パン君が少々哀れな気もしましたが、僕は七輪ではないのでほぼ練炭と化した彼を食べてあげることはできません。
 他になにかないかと冷蔵庫をあさってみましたが、見事なまでに空っぽでした。昨晩まではいろいろ入っていたはずですが、どうやらアリスちゃんが朝ご飯の支度中につまみ食いしてしまったようです。
「仕方ない……コンビニでなんか買ってくるか」
 僕はそう独りごちていったん自室に戻り、眠っているアリスちゃんを起こさないようにそーっと着替えをしました。
 それからなにか書き置きしていこうかとメモ用紙とペンを探しかけたのですが、アリスちゃんは起きる様子はないし、こんなワケのわからない女の子がイキナリ同居を申し出ても「好きにしてちょうだい」の一言で片付ける、放任主義を通り越して無責任きわまりない僕の保護者に気を遣う必要もないので、やめました。
「行ってきまーす」
 小さな声で言ってマンションを出ます。


 マンションの裏にまわり、住宅街を200メートルほど歩くと青い看板のコンビニがあります。僕はそこに向かいました。
 と、いつも横切っている小さな児童公園に入ったときです。敷地のちょうど真ん中あたりに造られている砂場から、突然ボシュ!と光の柱が吹き上がりました。
「なんだ……?」
 昨日から不可思議なことが起こりっぱなしでしたので、僕もさすがにこの程度でパニックになったりはしません。
「メラゾーマなんですぅぅ!!!」
 いきなり高いキーの声が響いた瞬間、光の柱から巨大な火球が打ち出されました!
「うわわわわウッキャ〜〜!!!!!!!」
 僕は0.2秒で大パニックに陥り、どうしていいかわからなくてその場にガバッと伏せました。火の玉は僕の上を素通りし、道路に停めてあった自動車にあたり、車は無惨に爆発炎上してしまいます。
「あなたがタツミくんですかぁ?」
 顔を上げると、光の柱がシュウっと細くなって消えていき、中から小柄な少女が一人現れました。
「き、君は……!?」

 大変です、この女の子もアリスちゃんに負けず劣らずのプリティフェイスです!
 ゆるいカールがかかっている焦げ茶色の髪。ピンクの襟付きマント姿で、緑のゆったりしたローブを着込んでいます。服の上からでもその至福のふっくら感がわかる胸の真ん中に、大きなペンダントが揺れています。
「あなたがタツミくんで、間違いないですかぁ?」
 僕が言葉につまっていると、彼女は急に瞳をウルウルと潤ませました。今にも泣き出しそうです。僕は慌てて立ち上がり、彼女に近づいてそのフワフワした髪の毛をポンと軽く叩きました。
「大丈夫だよ、僕がタツミで間違ってないよ」
 ニッコリ笑いかけます。もちろん斜めから差し込んでいる朝日に白い歯がキラーンと輝
くよう、角度を計算するのを忘れません。
 彼女はフワンと笑顔になりました。見ているこちらまで幸せにな気持ちになるような、心が洗われる笑顔です。
「良かったですぅ。違う人にメラゾーマしてたら、困っちゃうところでしたぁ」
 困るどころの騒ぎじゃNEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!
 彼女のあまりの可愛らしさに、僕は背後でモクモクと黒煙を吹き上げている自動車の存在をすっかり忘れていました。
 しかも今の話だと、彼女は明確に「僕」に対して攻撃を仕掛けてきたワケです。
「もしかして、キミは魔王の仲間なのかい!?」
 僕が聞くと、彼女はエッヘンと咳払いして両手を腰にあて、プルンと胸を張りました。
「そうですぅ。私は大魔王様の右腕にして上の世界の支配者、魔王バラモス――」
「マヌーサかゴルァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
 僕のコンピュータ並の頭脳は一瞬ですべてを悟りました。
 騙されました騙されました騙しやがったなコノヤロウ。僕の怒りは大空に駆け上る竜神の如く、1ターンでスーパーハイテンションです!
「貴様カバかぁ! あのモツ好きのカバ親父なのかぁああ!」
 えり首をつかまれてガックンガックン揺すられ、またもや涙目になった相手は必死に首を振って否定しました。
「ちち違いますぅ! 私は娘のバラミですぅ!」
「へ?」
 バラミと名乗った少女は、僕が手を放すとその場にペタンと座り込んでしまいました。
「ふえ〜ん、タツミくんヒドイですぅぅ」
「あらら、ゴメンねバラミちゃん。ほんとゴメン」
 なんだ娘さんだったのかぁ。こりゃ勘違い。
「いやでも! あの物体からどうしてこんな美少女が!?」
 どう遺伝子改良をほどこしても、あのカバから美少女を造るのは不可能です(断言)。仮に100%母親似とすると、この子のお母さんもかなりの美女ということになります。カバにはあまりに贅沢です、宇宙の摂理が許しても僕が許しません。
「お父様をカバカバ言わないでくださいですぅ。お父様はちょっと個性的なだけですぅ」
「ああ、悪かったよ、個性的なカバなんだね?」
「違いますぅぅ!」
 バラミちゃんはよろよろ立ち上がると、僕を見上げて必死に訴えます。
「大好きなお父様だったのに……アリスちゃんに倒されちゃったんですぅ。でもタツミくんならお父様を助けられるって聞いたんですぅ!」
「僕が?」
 どうも事情があるようです。