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4の人◆gYINaOL2aEの物語

デスパレス[2]
太陽が休息に入り、入れ替わりに月がその姿を現す。
月下に映し出される魔城は、昼のそれとは全くの別物だった。
荘厳かつ、厳格さを滲み出す外観。
尖塔の上で、城壁の傍で、蠢く影。
――デスパレス。
人の悲鳴が聞こえてくる訳では無い。
魔物の雄叫びが響いてくる訳でも無い。
動物の気配もしないのは、捕食されるのを恐れたからだろうか。
聴こえるものと言えば、僅かな虫の音と、微かな草の音のみ。
目の前に恐怖の象徴が佇んでいるというのに、辺りは嫌になるほどに静かだった。

ソフィア、ソロ、アリーナ、ミネア、ブライ、そして俺の六人が変化の杖で姿を変える。
全員でぞろぞろと行く訳にもいかないので、残りのメンバーは待機し、有事の際には陽動を行う事となる。
しかしいくら姿が魔物になっても、仕草や細かい動きまでフォローしてくれるものでは無いだろう。
この辺り、多少意識していかないとマズイだろうか…。
軽く緊張しながらも、ソロを先頭に城門をくぐる。
彼は、呪怨装備を身につけていた頃、数度来た事があるらしく、ある程度勝手を知っていた。
城内に入ってすぐ、まるで兵士のように佇む虎の魔物がじろりと俺たちを睥睨する。

大丈夫、な、筈――。
そう思ってはいるものの、背中を嫌な汗が伝うのを感じる。
いくら変化の杖を使うからといって何も真正面から入る必要も無かったのでは無いか等の雑念が浮かんでは消えていく。
時間にしては、それほど経っていない。
それでも、虎の魔物が俺達から視線を外すまでの間は、中々生きた心地がしないものであった。

「…どうやら、巧くいったようじゃな」

ブライがぼそっと呟く。
…実際のところ、コンジャラーに化けたブライが一番順応している気がするのだが…。
殆ど動きも変わらないし…。

「では予定通り二手に分かれよう。くれぐれも、気取られないようにな」

ソロとアリーナとブライが地下牢へ。
俺とソフィアとミネアは、先に二階を中心に探りを入れる。
…しかし、昼間、マーニャにあっさりと看破されてしまった事を思い出すと、
ソフィアとミネアの二人とだけ共に居るのは少し躊躇われた。
俺は直前にブライに入れ替えを求める。老人は、ふむ、と頷き了承してくれた。
ブライとしてはアリーナと離れるのには抵抗があったのだろうが、
この城にサントハイムの者が誰かしらいる可能性を考えると、彼女と別行動をした方が良いと考えたようだ。

地下牢の探索は、アリーナたっての願いであった。
もしかしたら、サントハイムの人々が幽閉されているかもしれない。
確かに、サントハイムで起きた神隠しがデスピサロの仕業だとするなら、その可能性は十二分に考えられる。

慎重に階段を降りる。
まず飛び込んできたのは炊事場だった。
そして、忙しそうに動き回る女性――人間だ。
思わず声をかけそうになるアリーナだったが、テーブルに座る影に気付き、はっとする。
なるほど、どうやら女性は下働きのようなものをさせられているらしい。
…此処であの魔物を斃す事は恐らく可能だろう。
だが、その後が続かない。続かせる為には少なくとも、散らばっている仲間達との連携は必須であろう。
悔しさをぐっと堪え、更に奥へと進む。

――地下牢。
結果だけを言うならば、そこにアリーナの求める人々の姿は無かった。
何人かの人間が放り込まれていたが、どれも見覚えのある顔では無かったらしい。
しょんぼりと肩を落とすアリーナに、俺も、ソロも、言葉をかけられずにいる。
いや、ソロは敢えてかけないのかもしれない。
彼は恐らく知っていたのだろう。
サントハイムの大勢の人々がこの城に囚われているとなれば、出入りしていたソロが気付かぬ筈が無い。
それを事前にアリーナに伝えなかったのは…彼女の気性を考えれば、最良の判断だと思える。
機会があるのなら、自分の瞳で確かめたいのは当然だろう。
その機会が周りにかなりの無理を強いる等があれば少し話は違ってくるが、今回は比較的容易であった。

「げはげは、なんでもエビルプリースト様は愚かな人間を使って――」

「おい、声が大きいぞ」

「げはげは、すまんすまん。……ロ様の大……奪う……」

突如響いてきた声に、俺たちはドキリとして発生源を探した。
特に、アリーナの反応は過敏だった。
難なく場所を特定したか、近くにあった階段を二段飛ばしで駆け上がる。

「それが本当なら、エビルプリースト様が魔族の王になる日も近いか…」

なんだ?なんの話をしているんだ?
…エビルプリースト?なんだそいつは…?
もう少し、聞きたい。心につられてか、身も乗り出る。

「それにしても、全く哀れなのはサントハイムの王だよな」

「自分たち人間が、エスターク様の復活を手助けしてしまう事を夢で知って……
アッテムトでの穴掘りをやめさせようとした為に、闇の力で消されたのであろう。
我ら魔族ですら、エスターク様があんな所に封じられたとは知らなかったもんな」

「…待て、誰かいるぞ!」

いっけね、見つかったか!?
――刹那、俺の後方から戦風が吹いた。
階段の踊り場で繰り広げられる一瞬の戦舞。まさに、獣のような動きで――って、そりゃそうか。今の俺たちは魔物に変化してるんだった。
彼女のスピードが勝り、二匹の魔物達は応援を呼ばれるまでもなく、その場に昏倒する。
肩で荒い息を吐くアリーナの肩に、ソロがぽんと手を置いた。

「がおーーーっ!!」

ぎゃっ!?
耳元で発せられる魔物の雄叫びに、飛び上がる。
やべ、軽くちびったかも…。

「うふふ、驚きました?なんか、なりきっちゃって…」

「ミネアかよっ」

「それよりも、急いでこちらに来てください。何でも、会議が始まるとか」

俺達は急いで地下から這い出、別棟の更に二階へと向かう。
会議に使われる部屋には、それに相応しく長い机が二つ並べられていた。
机を挟むようにして、丸椅子がずらりと並ぶ。
そして、前方中央には一段高くなった演説台のようなものが鎮座している。
恐らく、此処に、ヤツが――。
俺達は逸る気持ちを抑え、それぞれ椅子に座る。
魔物がまだまばらにしか集まっていないのが幸いした。
どうやらこの会議――というか、招集は大分緊急のようであった。

やがて、ざわりとどよめきが起こると同時に空気が、変わる。

「静粛に!まもなくデスピサロ様がいらっしゃる頃だぞ!」

言われずとも解る。
ヤツが――来る……!
俺は、今居る場所から見て前方の廊下側通路――先ほど俺たちが入ってきた所から、ヤツも現れると思っていた。
だが――違う。このプレッシャーの発信源は、前方では、無い――。

かつん。

甲高い靴底の音が響く。
後ろから、だ。
バルコニーから入ってきた気配が、ゆっくりと演説台へと進んで行く…。
脂汗が止まらない。
その男は、気配だけで人を殺しかねない、凶悪な雰囲気を纏っていた。

「――聞いてくれ、諸君…。
たった今、鉱山の町アッテムトで大変な事が起こった」

演説台に登り、くるりと振り向く魔族の王。
銀髪を靡かせ、見る者を魅了して止まないその容姿に、笑み――の、ようなもの――を浮かべ、そう言った。

「地獄の帝王エスタークが、人間どもの手によって蘇ったらしい。
どうやら人間どもは気付かぬうちに地獄の世界を掘り当ててしまったらしいのだ」

ぐるりと視線を廻らせる魔族の王。
その瞳が、俺達を順に捕えていく――。
気付かれている?いや…そんな事は無い、筈だ。現に、その視線は外れていく…。
その瞬間、俺にはヤツがにっと、口の端を歪めたような気が、した。

「兎に角、アッテムトだ。エスターク帝王を、何としても我が城にお迎えするのだ!
さあ、行くぞ!諸君も急いでくれ!!」

どよどよとざわめく場にデスピサロは頓着せずに、
さっさと演説台を降り、再びバルコニーに向かう。
瞬間転移(ルーラ)で飛んで行くのか、会議場に居た魔物達もまた、デスピサロに追従して行った。

そうして…まるで金縛りにあっていたかのような仲間たちにもまた、時間が流れ出す。

「――動けなかった……」

ぽつりと呟いたのは、アリーナだ。
悔しそうに、身体を震わせ拳を握り込む。

「どうして?今、此処で仕掛けたとしても多勢に無勢だったから?
違う…そんな理由じゃない…ただ、私は…!」

「落ち着いてくだされ、姫様。理由はどうあれ、動かなかったのは正解じゃ。
あの男は…強い。逃げ道も無く、我ら全員が倒されてしまってはおしまいじゃ」

「でも!!」

「…今はまだ、届かないのなら、階段を上り続ければ良い。そうだろう?
俺は、そうするつもりだ。…君はどうする?」

「……。征くわ、決まってるじゃない、そんな事……!」

ブライとソロに、噛み付くように気炎を吐いてみせる少女。
そんな中で、俺はソフィアの様子を窺っていた。
彼女もまた、デスピサロに対しては深い因縁を持つ。
激昂し、飛び出していってしまうのではと心配もしたものだが、どうやら彼女はとても冷静であったようだ。
そっと表情も窺ってみたが、以前、彼奴の名前を聞いただけで怨嗟を渦巻かせたとは思えないほどに、穏やかで。
いや、穏やかというのは正確では無い。やはり、そこには恨みのようなもの、悔しそうに、憎しみの炎を宿らせてはいたのだが、
今まで、唯、それだけだったのに対し…今は、もう少し複雑に色々な感情が渦巻いているかのような。
やはり肉親が…ソロが生きていた、というのが大きいのだろう。
俺では彼女を救う事はできなかった、という事なのだが…それでも、復讐しか考えられない、という呪いのようなものから少なからず解放されてきているのだとしたら、
それは喜ぶべき事だと思う。矮小な俺自身については、今はおいておこう。

「アッテムト…エスターク…」

ぽつりと、その名前を呟いたのはミネアだった。
彼女は顔面を蒼白にして、ふるふると身体を震わせている。
俺は慌てて彼女に駆け寄り、顔を覗きこむ。

「ミネア?大丈夫?」

「あっ…はい、すみません、聞いた名前に取り乱してしまいました…。
もし、先の話が真実ならば、このまま放っておいたら大変な事になってしまいます。
まずは、急いでアッテムトへ…!」

「よぉし、やるわよ!地獄の帝王エスタークを、こてんぱんにしてやるわ!!」

ぐっと、毛むくじゃらの腕を突き上げるアリーナ。
…ま、何となく、戦いになりそうな気はするけどな。
しかし今思い出したが、まだ魔物の城に居るんだった。残っているのも居るだろうし、長居は無用だな。
城を出て待機している仲間と合流しようと動き出した時、意気揚々としていたアリーナがぽつりと呟いた。

「……ところで、エスタークって誰だっけ?」

……前途多難だ……。
俺も知らないけどな!!!道すがら、ミネアやブライが話してくれるだろう。


そうして。
俺たちはマーニャのルーラで、辿り着く。
死都――アッテムトへ、と。


HP:98/98
MP:48/48
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戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒
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