4の人◆gYINaOL2aEの物語
ロザリー[2]
「……ヤツは、南の大陸にある魔物達の城、デスパレスに居る」
男の声だ。
音の流れてきた方向を見ると、そこには布の服のみを着た碧色の髪の男が、ミネアに支えられて立っていた。
――ピサロナイト。そして、ソフィアの兄、ソロ。
跳ねるように駆け寄ったミニデーモンの頭を、彼は軽く撫でてやった。
ソフィアがびくっと身体を震わせ、俺の影に隠れるような挙動をする。丁度、俺が兄妹の間に立つ感じだ。
微妙に居心地が悪い…。
しかし――この男は、俺の敵じゃないのか?いや、敵だと思いたい。
なんだこのイケメンは?
ありえない美形っぷりに正直むかつきを通り越して引く。
ライアンは男らしいが美形とは違うし、クリフトも整った顔立ちではあるがまだ普通な方だ。
だっつーのによぉ!けっ!これだからよぉ、この世は不公平だっちゅうのよなあ?あぁ?(ビキッ)
パンチ&鬼剃りを入れたDQNのようにメンチを切るが普通にスルーされてしまった。鬱だ…。
「ソロ!もう、動いて平気なの?」
「…ああ、お陰様でな。
…楽な道では無いが、君達なら問題無く抜けられるだろう」
「ええ、勿論!ねえ、良かったら貴方が道案内をしてくれない?」
アリーナがいきなり勧誘しだした。
これにはソロも驚いたのか、複雑そうな顔をする。
「…本気か、アリーナ…いや、君はいつも本気なんだろう。だが、君以外にとってはそう易い話ではないだろう?
あの呪われた武具は、俺が自分の意志で装備したものだし、俺の行動の全てがアレのせいだった訳じゃない。
それに…俺はまだ、人を…」
そりゃそうだろう。
今の今まで戦っていた相手といきなり道中仲良くなりましょうなんてのはどだい無理な話の筈だ。
いや、俺はそう思うんだが。
「別に良いわよ。佳い男と一緒ってのは嬉しいし。それに、ねえ?
この超絶的に美麗なマーニャ様を掴まえて、醜いだなんだと言いっぱなしなんて許せないし。
人間が醜いかどうかは知らないけど、マーニャ様は美しいですって泣いて謝らせないと気が済まないわ」
「私も、強硬に反対する理由はありません。
先ほどの事は、ソロさんは自分の責だと仰いますが、やはりあの面のせいも多大にあるでしょうし」
マーニャとトルネコがまず賛意を示した。
トルネコは道具を見極める力に長けている故の意見だろう。…マーニャのは賛意なのかな?
「姫様がそう仰られるのなら――」
「これ、クリフト。何でもかんでも姫様の好きにさせては姫様の為にならぬ。
…とはいえ、魔物の城に行くとなると強い味方は多い方が良いじゃろうが」
クリフトとブライも、積極的に反対をする気は無いらしい。
「私は…ええ、そうですね…。
ソフィアさんと…ライアンさん次第ですね」
ミネアが控え目に発言する。
そうだ、ライアンは――。
「――私にも、反対する理由はありませんな」
何時から気がついていたのだろう。
身体中に包帯を巻いた戦士が、ゆっくりと身を起こす。それを、クリフトがさりげなくサポートした。
ともすればぐらつきそうになる身体でありながら、しっかりと背筋を伸ばして良い姿勢を保つ。
この男は意識がある以上、仲間に弱々しい所を見せる事などないのでは無いか。
「ソロ殿の実力は周知の通り。是非とも、ご同行してもらいたい」
「――止してくれ。あんた、何を……俺は、あんたを――」
「そのような事は些細な事です。
戦士とは、戦う為の存在。その先に何が待っていようと、受け入れる覚悟をとうに決めている。
それに――貴公の剣術は確かに中々のモノだが、それでも私から見ればまだ、甘い。
道を共にすれば、きっと貴公にも得るモノがあると思いますぞ?」
戦士はニヤリと笑ってそう言った。
その表情を見て、ソロは絶句する。正直な所俺も似たようなものだった。
なんというか。こういうのを、大人、と言うのだろうか?
いや大人の中でも珍しいのでは無いのだろうか。
これこそ、戦士が戦士たる所以なのかもしれない。
「わ、ゎ、わた、わた、しは……」
舌が巧く回らないのか、ソフィアどもりがちだった。
それでも、何とか懸命に意図を自分で伝えようとする――の、だが。
ガタン!
椅子が引っくり返る音をさせ、少女は急に駆け出して行ってしまう。
呆気に取られる俺を尻目に、
そのまま真っ直ぐに部屋を飛び出して行ってしまった。
「――あちゃー。ほら、あんたちょっと行ってきなさい」
マーニャが俺の尻を蹴っ飛ばした。
そんな事言われても。行ってどうしろってのよ。
「まだあんたは賛成とも反対とも言って無いし。都合が良いでしょう。
ほら、速く行く!こういう所でいい加減、一々私の手を煩わせるな!!」
ああ、もう!
俺は訳が解らないまま少女の向かった先へと走り出した。
「で、一応確認しておくけどあんた自体はどうしたいのよ?」
二人が離れたのを確認してから、
マーニャが改めて値踏みをするかのような視線をソロに向けた。
「……人間に対する感情がすぐ払拭される訳がないし、事実醜い者達は多く存在する。
ロザリーの護衛をしている間に、どれだけ愚昧で矮小な輩と遭遇したか――。
……だが、そんな事など問題にならない位に、ソフィアに酷い事を言ってしまったのを後悔している。どうするのが、一番良いのか……」
「ふーん。ま、それなら大丈夫でしょ」
「…?何が、大丈夫なんだ?」
「ん、どうせソフィアも同じ事考えてるだろうなぁって。なら、一緒に居てあげなさい。
私達があんたの同行に反対しないのも、多くはあの子の為よ。
悲しい事や辛い事を抱え込むのは大変だもの。私は、ミネアが居てくれて本当に良かったと思ってるから」
「…俺は君たちにも酷い事を言ったな。…すまなかった」
「いいのよ。それに、あんたの言った事は私達も自覚してるしね。
だからこそ、ソフィアには同じ道に来て欲しくないんだけど…。私が言っても説得力無いしねえ」
けらけらと笑って踊り子の娘はそう言った。
ソロは、純粋だった。
純粋故に、不純を認められない。
だというのに、彼は己の中に住む憎悪という名の生物の存在を自覚してしまっていた。
最も滅ぶべきは己なのでは無いのか、と。
純粋故に、不純と思われるものを絶たねばならない。
過剰なまでの自己否定。周りをよく見る事ができず、内へと進み心が閉鎖的になる。そこにもまた、呪怨武具の影響があった。
それでも、彼は生涯そのような事を言わず、己の不徳とするのだろうが。
既に、その呪怨武具は無い。
此処に来て、ソロの運命は再び岐路へと辿り着く。
だが、彼が道を選ぶにはもう一つ気になる事があった。
ソロは、ロザリーへと視線を転じた。
紅い髪の娘。
ソロにとってロザリーは特別な娘だった。
そう、娘は彼の――幼馴染にあたる女性の面影を持っていたから。
「ロザリー。俺は――」
「お行きくださいませ、ソロ様。私なら大丈夫です。我侭を言わず、この塔から出なければ良い事ですし。
――ありがとう、ございました。貴方様のお陰で、私は本当に毎日が楽しかったです。
沢山お外にも出られましたし、風邪を引いた時には看病もしてくださいました。感謝してもし切れません。
……ご安心ください。人には、様々な人がおりますが、貴方様の心も、とても澄んでおられます。そして、貴方の妹様も」
「……すまない、ロザリー。俺の方こそ……君の、お陰で……ありがとう……」
部屋の奥、その先に少女は居た。
小さなバルコニーだ。――此処は、イムルの宿で見た、ロザリーが顔を覗かせていた場所だろうか。
話しかける際に当たり障りの無い掴みを考えるが何も思いつかない。
微妙な沈黙が流れる中、ソフィアの現状について思いを馳せる。
少女は此処に来て、声も、そして天涯孤独であった身の上に兄を、その気になれば取り戻す事ができる。
かなり際どい所であったのは確かだが、アリーナのファインプレイだろう。
ソロには、ソフィアの身体が炎に包まれて見えてしまっており、ソフィアは喋れなかった為声で気付く事も無かった。
ソフィアは、ソロの身体は鎧で覆われ解らず、面でソロの声が曇っていたのとソフィアの精神状態のせいもあり、音で気付く事ができなかった。
まるで、運命のような、最初から定められていたかのような悲劇への軌跡。
それもアリーナのお陰で見事に曲げられた。
今、ソフィアは新たに選択をする事ができる。
だが――。
「……兄さんは、私を醜いって言った」
「――……それは――ほら、あの、邪神の面とかってヤツのせいで――」
「私は兄さんの声を聴いても、気付かなかった……。
それどころか、兄さんを殺してしまう所だった……。
その上、貴方を傷つけてまでした結果がこれだなんて……」
先ほどの戦いは、少女に精神的なダメージを与えていた。
悪い事をしたと、そう思っている。良心の呵責が、少女に『自分に都合の良い選択』をさせじと抵抗しているのだろう。
マーニャが俺を向かわせた理由を察する。そして、それとは別にもう一つ。
復讐。
その為に戦ってきたと言うのに、そのせいでソフィアは更に多くを失う所であった。
故に、迷いが見て取れる。そしてそれは俺にとって――好機なのだ。
「――だけど、ソフィアの兄貴は死んでいない。俺だって生きてるし、それに――ソフィアは、声も取り戻したじゃないか。
この結果は俺たちにとって万々歳だよ。偶然の産物かもしれないけど、結果自体は決して悪いものじゃない。
……復讐については……これから、考えて行けば良いんじゃないかな」
俺は復讐が絶対的に悪い事だとは言えないと思っている。
そもそも、殺したい程憎い相手が存在した事が無いのだから、実際にはまるで解らないのが当たり前の話で、
幸せな世界で暮らしていた人間が、復讐を決意した者を否定し翻意を促すのはおこがましいと思うのだ。
復讐の先に幸福などありはしないとは言うけれど、それは……本人が気付かないと意味が無いんじゃないか?
だからこそ、少女が迷い始めたのは、チャンスなのだとそう思う。
復讐で、ソフィアの心が安らぐのなら、それはそれで良い。
だが、もし復讐でなくともそれが達せられるなら――それもまた、どちらが良いかは解らないが、悪い事では無いと思う。
「ソフィアがソロの同行に反対するなら、俺も反対するよ。多分、皆も納得してくれる。
俺や、俺たちはやっぱり、ソフィアを中心に集っているんだから。
……だけど……ソフィアがちょっと勇気を出す事で、兄貴とまた一緒に居られるんじゃないか?」
「……だけど……私……」
「大丈夫。きっと、大丈夫だから……」
ぽろぽろと泪を溢す少女の頭を撫でる。
癖の強い髪を、さらにくしゃくしゃにしてしまおうと思った。
ソフィアはされるがままになりながら、暫くじっと考え込んだ後、おもむろに顔を上げてくる。
うお、お、怒られるかな?髪の飛び跳ね率は当社比1.5倍位になってるけど…。
「……ねぇ」
「ん?」
「……私の声、おかしくないかな?」
「ああ、勿論。おかしい事なんか一つも無いし、ソフィアの声を聴けて俺は当然、皆もきっと嬉しいよ」
俺の即答に、恥ずかしそうな嬉しそうな、色々と入り混じったような顔をする。
そうして。
決断をした少女がゆっくりと、皆の待つ部屋へと歩き出した。
夜の世界から吹き込む心地よい冷気含んだ風が、そっと、その小さな背中を押していた。
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