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4の人◆gYINaOL2aEの物語

獅子王[1]
大陸間移動を果たした俺たちソフィア率いるアリーナとマーニャの下僕たちは、船を港にはいれず接岸し、陸から港町ハバリアへ足を踏み入れた。
逸る気持ちを抑え、宿で一度休息を取る一行。
急いでキングレオに行かないとならないのも確かなのだが、いかんせん長い船旅は皆初めてで、疲労の度合いが半端でなかったのである。
俺も部屋に入るや否や寝る準備もそこそこにすぐにベッドに潜り込んでしまった。

そして、夜。

急に眼が覚めてしまった。
もう一度寝直そうと何度か寝返りを打つのだが、どうもいけない。
少し外の空気にでも当たってこようか――そう考えて外に出ようと、音を立てぬようそっと部屋の扉をあけ廊下にでる。
――目の前に薄ぼんやりとした人影がある。
すわ!?幽霊か!?
俺は内心ガクガク(((( ;゚Д゚))))ブルブルしながら、それでも旅の間で少しずつついてきてしまった度胸のせいで、それが果たして何なのか確かめようと眼をこらす。
碧色の髪。
なんだ、ソフィアじゃないか。薄暗くてよく解らなかった。
こんな時間に、どうしたんだろう?
ソフィアは迷い無く歩き、やがて宿屋を出て行ってしまった。
俺は彼女が気になったのもあるし、どうせ外に出ようと思っていたのもあったので、なんとはなしに彼女について行く事にした。
適当なところで声をかけてもいいし、後ろから驚かせるのも良いかもしれない。まさかいきなり斬り殺されたりはしないだろう。アリーナなら危ないが。
彼女を追いかけ宿屋を出ると、既に町からも出て行こうとしている。
慌てて後を追う。だが、歩調がかなり速い為か中々追いつけない。
町の近くとはいえ、一歩外に出てしまえばそこではいつ魔物に襲われてもおかしくない。
そしてこの辺りの魔物はエンドールやコナンベリー、ミントスの魔物と比べてもかなり強いのだ。
俺たちもまた少しずつ強く(或いは慣れてきているだけか?)なってきているのだが、まるでそれに比例するかのように魔物もまた強くなっている。
不安に襲われた俺は、彼女に声をかける事にした。


「おーい!ソフィア!」

だが、彼女の足は止まらない。
何故だ?聴こえていない筈はないだろうに――。
一度戻るべきか?多少迷うが、此処で彼女を見失ってしまえば例え戻ってミネアやクリフトに相談しても迅速な対処はできないだろう。
意を決して、一人でソフィアの後を追う。
幸いなことに――彼女の目的地はさほど遠くないようだった。
やがて見えてきた建物――あれは、祠だろうか?――に、その小さな姿が飲み込まれていく。
俺も慌てて彼女の後を追った。

「おわ!?」

するとどういう訳か入り口近くで立ち止まっていたソフィアに軽くぶつかってしまった。
そこで初めて俺の存在に気づいたかのように、ソフィアはひどく驚いているようだった。
俺が、宿屋から出て行く姿が見えたから追ってきた、途中で呼びかけたがそれも聴こえていないようだった旨を伝えると、ソフィアは首を傾げて、俺の声は聞こえなかった、代わりというかなんというか、誰かに呼ばれて此処まで来たような気がするがよく覚えていない、との事だった。
もしかして、罠だろうか?
顎に手を当てて考え込む俺に、ソフィアはそういう嫌な気配は余り感じない、と言う。
…大丈夫だろうか?
未だ迷っている俺を尻目に、ソフィアの方はこの建物自体に興味津々と言った様子だった。
彼女は出会った時から好奇心が旺盛で、新しい物や場所にはとても関心を示す。
――だが、好奇心は猫をも殺す事もある。
まあ、そうならないように俺が見守る事ができれば良いのだが、残念ながら俺はまだまだ守られる側である。
…差は詰まる所か余計に開いている気もするがー…。
俺がまた内面世界に引き篭もっている間にソフィアの方はきょろきょろとしながら前進している。
俺は再び彼女を追った。


建物自体はそこそこの大きさがあるようだった。
高さも横幅も俺が知っているような家々のものとは違い大分大きい。どちらかというと、祭壇のイメージだろうか…?
建物の中央に、眼の高さ位まである十字の塀の中で一際大きな炎が赤々と滾っている。
とりあえず、火の大きさだけで俺の身長以上あるわけだ。
そして中央の炎を守護するように――或いは寄り添うように、7つの少し小さな、それでも十二分に大きな炎。
そもそも何が燃えているんだろうか?こんな所で炎を焚いている理由はあるんだろうか?
疑問は尽きないが、魔法が実在する世界でそういう事をあんまり気にしてもしょうがないかもしれない。と、最近達観してきている。
…思考停止だな。これは危険な気もするが…。
俺たち二人は、その何とも言えない不思議な空間に眼を奪われつつ、ぐるっと回り込み奥を目指した。
ソフィアの足が止まる。俺がどうしたのかと彼女の視線を追ってみると、そこには1つの人影が見えた。

「ようこそ。此処は、お告げ所。神のお告げが降る聖なる祠」

こちらが誰何の声を上げる前に、人影が語りだした。
声の雰囲気から察するにどうやら女のようだが。
俺とソフィアは一度顔を見合わせる。

「バトランドの戦士ライアンが、勇者を捜し求めてやって来たのです。
神の示された勇者の姿をライアンに伝えておきました。
光が一段と輝きを増しています。やがて、出会いの時が来るでしょう」

一方的に叩き込まれる情報に俺たちは軽い先制パンチを食らった気分だ。
というか、オラクルマスターはミネアだけで間に合っている。

「神って、なんすか?」

「神は、神です。全知にして、全能なる存在」

「本当にいるの?」

「いますよ」

「見た事あるの?」

「ありません」

「じゃあ、いる事の証明はできないんじゃね?」

「私には神の声が聴こえます。それに、存在するのですから、それは存在するのです」

淡々とした応答。うぐぅ、よく解らん。
俺はとりあえず一度質問を変える事にした。

「全知って事は、何でも知ってるの?」

「そうです」

「じゃあ、俺の事も知ってるんかな?」

「貴方についての神の御意思は量りかねますが、神が知りえぬ事はありません」


ふーん…?
どうも眉唾物の話しだが、仮に実在するとしたら神様とやらに会えれば元の世界に戻れるかも…?
しかし、なあ。全知全能ならもっと色々やって色々良くしてくれりゃいいのに。って、俺も抽象的過ぎるか。
少なくとも――ソフィアにこんな過酷な運命を背負わせる事は無いんじゃないかと思う。
それとも、神とはそういうものなのだろうか?存在するにしろ、しないにしろ。
あんまり良いイメージが無いな。神様とやらには。
いやまあ、神様に罪があるとするならその存在自体が罪だって事になっちまうし、それはあんまりかもしれないが。
カルトにしろ、原理主義にしろ、神の名を盾に好き勝手やるのがいるとなあ。
俺の世界の宗教はイデオロギーの面が強すぎるし――神がいつも見ていると説かないと己を律する事ができない奴が多いのが、人の落ち度なのだとしても。
神という概念が存在する世界としない世界を比べるのはナンセンスだが、どうだったろうなと考える事はある。
まあ、今より良いと断言できるほど神を憎んでもいないのだが。
俺の元の世界の話こそ今はどうでも良い。悲しい事だが。
この世界に神の概念がなければ、比較する事もできたかもしれないがね。

くんっと袖を引かれる。
何か訊きたい事があるのだろうか。どうした?と訊ねてみるが、ソフィアは眼を伏せ頭を振るばかり。

『此処は…此処は、何か、嫌…』

…震えているのか?
ソフィアのこんな姿を見たのは久しぶりな気がする。
それこそ、あの村や、エンドール以来では無いだろうか…?
この祭壇に邪悪なる者達の気配は無く、禍々しい邪気のようなものも感じない。(俺はまだまだ素人だが)
そんな俺が感じるのは――圧迫感、だろうか?
俺は女に軽く会釈をした後、ソフィアの手を引いてハバリアの町へ戻る事にした。
とりあえず、ライアンという戦士が確かにこの辺りに来ているらしいというのが解っただけ収穫だったと今は思おう。


俺たちの目前には、威風堂々とした城が立ちはだかっている。
なるほど、キングレオ城の名に恥じないものだ。

「相変わらずこの城はいやーな空気に満ちているわね」

隣にいるマーニャが、眉間に皺を寄せる。
ミネアがきゅっと自分の服の襟元を掴む。

「バルザック……。今度こそ、絶対に許さない」

思い詰めたようなミネアの言葉。
それとは対照的なのがアリーナだ。

「お城っていうだけでちょっとサントハイムを思い出すわ」

なんとも能天気な台詞だなと思い、アリーナを見ると、彼女の眼は思いのほか真剣だった。
此処ではない何処か。この眼は何処かで見た気がする。…そうか、あの時のソフィアも…。
――今は決して届く事が無い、哀切を帯びた瞳。
彼女たちには、非常に重たい荷があるのだろう。
現在、城の前にいるのはソフィア、アリーナ、ミネア、マーニャ、そして俺の五人である。
他の男たちは皆馬車で待機している。
この面子になったのも、事情を考えると妥当と言えば妥当なのだが妙に偏ったものだ。
アリーナだけは、彼女を心配するクリフトと揉めたのだが、結局何処ぞのストリートファイターのような、俺より強いヤツに会いに行く的な事を言う姫君を止める事はできなかった。
俺としてはそんな強敵に出会う事無く、穏やかにつつがなく波風の無い人生を歩みたいのだが…。
…まあ、そんな事を言えばついてこれないクリフトに怒られてしまうかもしれない。潜入に近い形になる以上、全員でぞろぞろと行く訳にもいかなかったのだ。
俺は何のかんのと言ってもソフィアを出来る限り助けてやりたいと思っているし、その為にはついて行く必要があるのも確かだ。
俺がついて行きたいと言う限り、ソフィアは許可してくれそうなのだが――最近、こちらを心配そうに見る事が増えている。
もっとしっかりしないと危ないかも、俺。


見張りもおらず、開け放たれたままの城門をくぐる。
前方には庭が広がり、二つの噴水。そして、大きな正門。流石に正門の周りには、兵士が二人ほど立っていた。
先頭を行くソフィアが何かを見つける。どうやら、噴水の近くに人影があるらしい。
俺たちが近づいていくと、相手もこちらに気づいたようで小走りに近づいてきた。

「ボクはホイミンという旅の者です。
どうか、お城の中に連れて行かれたライアン様をお助けください!
魔法のカギがあれば中に忍び込める筈です」

なんだこいつ?ちょっと迂闊じゃね?
まあ、俺たちは城の兵士には見えないだろうが…。
アホな子かな、と思ったのだがどうやらかなり焦っているようである。
ライアンという戦士とどういう関係なのだろうか…?
ちなみに、ぱっと見は男に見えるのだが詩人のようなゆったりとした服装に、整った顔立ちの為性別がはっきりしない。
うほっ、なのかボクっ娘なのかは敢えて言及を避けよう。俺は後者の方が夢があって良いと思う。

「助けてと言われると途端に見捨てたくなるのは何故なの?ねえ、あたし。
そういえば、あの時も鍵がかかってて中に入れなかったわね」

サドっ気全開のマーニャに内心おどおどしつつ、
その時も魔法のカギとやらを使ったのかをミネアに訊ねた。

「いえ。以前はオーリンさんが扉をこじ開けてくれたんです」

この台詞が決定的だった。
これを聞くまでは、彼女もカギを先に取りに行かないとだめかーと言っていたのだ。
マッスル・プリンセス・アリーナその人である。

「人間に出来た力技なら私に出来ない訳がないわ!」

おまいはいつから人類最高の力を持っている事になったんだ。オーガか?
そもそも、忍び込むんだろう?門の前には兵士がいるんだぞ。


「城には大抵裏門がある筈よ!そっちからいきましょう!」

こうして俺たちは、アリーナが細い腕で信じられない力を発揮しこじ開けた扉をくぐり、城の中へと潜入した。
ホイミンも焦っていたことだし、兵は拙速を尊ぶという事で良しとしよう。


そこは、外見の立派さとは違い大分おかしな城だった。
一階にも二階にも玉座、王の間が無い。
城の廊下でキモスな男と娼婦のような女が追いかけっこをしている。それを咎めるべき兵士も殆どいない。
散乱したご馳走であったもの。床にぶちまけられたワイン。
それら腐敗臭に混じり、別の異臭もする気がする。毒ガスでも噴き出してるんじゃないのか?いや、それは困るが。
二階の一室に、ひっひっひっと解りやすく笑う学者っぽい男がいた。
軽く小一時間問い詰めたところ、なにやらこの国の王は城の人間を使って魔法の実験をしているらしい。
それを聞いたミネアの表情が沈痛なものに変わった。
とりあえず、こいつを簀巻きにするのは後でも良かろうと一度部屋を出る。

「これで一通り確認しましたね…こうなってくると逆にあそこしかない、となるのですが…」

まだ当てがあるらしく、こちらへ、とミネアが先導する。
城の奥の廊下を歩いていると、壁に向かって立っている兵士が三人ほど見えてきた。

「こ、こら!大人しくしろ!」

中央の、趣味の悪いピンク色の鎧を着た兵士――いや、あれは城の兵ではなく戦士、か――の気合の声が辺りに響く。
戦士――ライアンは、両隣にいた兵士たちを一息で吹き飛ばして見せた。

「あの戦士、中々できるみたいね。兵士をあんなに吹っ飛ばすなんて!」

喜びながら駆け出すアリーナ、そしてソフィア。俺たちも後に続く。
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