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◆u9VgpDS6fgの物語

アルカパ[4]
町の周りを囲む森をぐるぐると歩きながら
さっきの芋虫や、角ウサギ
(ビアンカは攻撃するのを嫌がったが、
角で突かれたら怒ったようで執拗に叩いていた)、
ドラキーやおおきづちなんかを次々に倒していく。

何匹目かの芋虫を倒したところで
唐突にビアンカが『あっ!』と声を上げた。
『凄いわ。あたしにも呪文の才能があったみたい!』
ビアンカの言葉に思わずえ?と返す。

『パパとママは呪文を使えないから、
あたしもきっと無理だって思ってたのよ』
にこにこと嬉しそうに話すビアンカが
俺の当惑した顔を見てきょとんと瞳を丸くする。
『どうしたの?まさか呪文もまだ知らないの?』

首を振って一応の否定を示しながら
俺はビアンカにおめでとう、と言った。

この世界では呪文なんて、当たり前の概念なんだ。
それを改めて感じて、俺は少しだけ寂しくなった。
少女の感動は、俺の感じたそれとはまるで違うものだ。
俺の世界にはこんなものないのに。
どうかしてる。こんなことで。感傷的に過ぎる。

ビアンカは俺の言葉を聞くと安心したように、
楽しそうに何度かその言葉を呟いていた。

ビアンカもレベルが上がっている。
こういうところはゲーム通りで良かった。
子供の体力のままで冒険を進めるなんて、はっきり言って無理だ。

更に暫く戦闘を重ねていると、ビアンカが唐突に立ち止まり
『ねえ、もう疲れちゃった』
とだるそうに言った。

自分とビアンカの体力と、膨らんだゴールド袋を確認して
俺はじゃあ一度町に戻ろう、と言った。
レヌール城に行く、と言い張られるのを覚悟していたが
ビアンカは意外にもあっさりと頷いた。

商店を覗きたかったが、町に戻ると
ビアンカは真っ直ぐに宿へと戻った。
しきりに瞼をこすりながら『今日はもう休みましょう』と、
強引に俺を階段へ押しやると自分の寝室へ引っ込んで行った。

俺も仕方なく部屋へ戻り
いびきを掻くパパスの隣のベッドへ体を滑り込ます。
疲れていたのか、今度はすぐに睡魔がやってきて
俺は暗闇に目を閉じた。


隣のベッドで咳き込む声に、俺は目を覚ました。
パパスが苦しそうに体を折り、
咳をするたびに筋肉が苦しそうに歪む。
傍らにおかみが立って心配そうにそれを覗き込んでいる。

『パパス、その体で戻るのは無理だろう?治るまでここに居なさいよ』
心配そうに盥からタオルを絞ると、汗の浮いたパパスの額を拭う。
眉を寄せたまま『すまない』と言うと
パパスはおかみに促されて身を横たえた。
もう一度固く絞ったタオルを、おかみがパパスの額に乗せる。

『あら、サンちゃん。起こしちゃったかね』
俺に気付きおかみがパパスから視線を外す。
パパスは顔だけで俺を見ると、極まり悪そうに微笑んだ。
『どうやらダンカンの風邪を貰ってしまったらしい。情けないな』

大丈夫?と声を掛けるとパパスはまだ苦しそうに頷くと
『明日には治る』と言い切った。おかみが苦笑いを零す。
『幸い薬は余計にあるしね。
長引くことはないと思うけど、明日はどうかね』

食事を用意するよ、と部屋を出るおかみについて俺も部屋を出た。
背中からパパスが『この部屋には戻るなよ』とかすれた声で言う。
部屋も用意しないとね、とおかみがまた笑った。

簡単な朝食をいただきロビーに出ると
大きなソファの上でビアンカが欠伸をしていた。
俺に気付き慌てて口を閉じる。

『おはよう、サン。外に行くの?』
正面扉へ向かう俺にビアンカが声を掛ける。頷くと、
『元気なのね。あたし眠くってたまらないわ』
もういちど、今度は口元を手で覆いながら大きな欠伸をする。

すぐに戻る旨を伝えると
戻ったら一緒にお昼寝しましょ、とビアンカが眠そうに手を振った。

町は今日も賑やかだった。町の樽を調べながら
(やっと落ち着いて調べられたけど収穫はなかった。何てこった)
商店のほうへ向かう。

武器屋、防具屋の品揃えをそれぞれ覗き込んで
財布の中身をチェックする。
幸いある程度の装備は整えられそうだった。
ビアンカを連れて来れば良かったと少し後悔した。

確か盾は装備できた気がするんだけど。
うろ覚えだ。いばらの鞭は間違いないんだけどな。

唸りながら真剣にカウンターを覗き込む俺の姿が可笑しかったのか
武器屋の若い店主は俺を見て笑みを零した。

とりあえず使わなくなった木の棒と古い方の服を売り飛ばし
いばらの鞭と、防具屋に回ってうろこの盾を購入する。
迷った末に、浮いたお金で木の帽子も買っておいた。
ゴールド袋には残り数枚のコイン。薬草も買えない。

広場を覗くと今日も、子供たちは飽きもせず
猫だか虎だかを追い掛け回していた。

宿に戻ってビアンカと寝室に向かう。
新しく用意された部屋は、
前の部屋よりは手狭だったがよく整えられていた。
並んでひとつのベッドに横になると
すぐにビアンカは寝息を立て始めた。

向かい合うように寝ていると
ビアンカの顔立ちがすぐ傍に見て取れる。
自分もこんな頃があったんだろうかと、
俺は少しだけ自分の世界に、自分の両親に思いを馳せた。

これは夢なんだろうか。
クリアしたら覚めるんだろうか。
港からの道程で、サンタローズの洞窟で、そして昨夜の戦闘で、
魔物から受けた痛みは哀しいほどに現実だった。
もしかして俺はこの世界に絡め取られたまま、二度と現実には戻れずに。

恐ろしい考えを振り払って、俺は目を閉じ
意識的に暗闇に思考を投げ出した。
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