暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Jacob's Dreame〜[2-27]
「今日という日がめでたく迎えられました。
それは何と素晴らしい事でしょう。
それも我らが創造主ルビス様のご加護と、勇者ロトの導きによるものです。
そして何より我々の心に先代女王レギーナがいつまでもあるように、
心よりの感謝を祈りと代えて届けるとしましょう」
里近くの森にある小さな広場。
そこにちょっとした式場が用意されていた。
整列したエルフ達を前に式を進行しているのはフィリアだ。
「それではこれより、夫となる者ソールと、
妻になる者フォルティスの婚礼の儀を始めます。
まずは人間の少年ソール。
汝は汝らを縛りつけようとする、ありとあらゆるものに立ち向かい、
エルフの少女フォルティスとの契りを主に誓いますか?」
「ち、誓います!」
少し緊張しているようなソールに、フォルテがクスリと笑ってしまう。
「ではエルフの少女フォルティス。
汝は汝らを縛りつけようとする、ありとあらゆるものに立ち向かい、
人間の少年ソールとの契りを主に誓いますか?」
「はい、誓います」
対してフォルテは緊張の色も見せず、嬉しそうに答えた。
「よいでしょう。ではその誓いの証として、指輪の交換を行って下さい」
フィリアから指輪を渡された二人が向き合う。
夢見るルビーのカケラを飾った、二つで一つの指輪。
それが互いの薬指にはめられた。
フォルテの柔らかい笑顔にソールは思わず赤面してしまった。
その様子を微笑ましく見守るエルフ達。
「種族の壁を越えるという偉業を成し遂げようとする事。
それは同時に苦労の連続でもあります。
だからこそ彼と彼女には助けが必要なのです。
この夫婦の力になる事を参列者の皆様にもまた誓って頂きたいと思います。
賛同して下さる方々は、拍手でもってお応えをお願いします」
「ふふふ、どう? おじーちゃん。孫が立派に努めを果たしてる姿は」
「うるさい。今いいところなんじゃ。話かけるでない」
真理奈達は広場の最後尾で式の様子を見ていた。
パトリスは今にも泣きそうな目でフィリアの事を見ていた。
やはり孫は可愛いものなのだろう。
「ソール、フォルティス。
過ぎ去った苦しみの思い出は喜びに変わり、
あなた達の行く道はきっと明るく、未来へと続いていきます。
これからはいつまでも2人一緒に歩んでください。
では最後に、契約の口付けを……」
そして小さな夫婦が誕生した。
拍手と歓声が沸き起こる。
「素敵ね。女王様にも見せてあげたかったな」
「そうじゃのう」
もし女王が生き残っていたなら、やっぱり結婚は許されなかったんだろうか。
もうそれを確かめる事はできない。
「何て悲しい呪文……命と引き換えに奇跡を起こしたんだね」
「命と引き換え……エルフの血……
そうか……ようやく意味が分かったわい」
「何の?」
「ジュードはエルフの血を吸ってヤツが力を宿したと言っておったが、
女王は血に力はないと……」
「じゃあ、どうして?」
「その力はヤツの命と引き換えに引き出された、
一種の呪文だったのじゃろう」
「え? それって……」
「命と引き換えに回復力を得るのがメガザルという呪文じゃ。
それを応用してかつての力を得たんじゃろう、と思う。
エルフの血には力はない。
ないが……
強いて言うなら、ヤツの思い込みがエルフの血に力を込めたんじゃ。
狂信者のような思い込みは実際に力を発揮する事もある。
たとえそれが夢のような事でもな」
「それが本当ならヒドイよ……
どうしてそんな夢を見るんだろう……
私だったらエルフと仲良くする楽しい夢を見るのになぁ」
真理奈がつぶやいた一言は、くしくも女王が望んで見ていた昔の夢だった。
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