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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-10]
「へぇ〜モンスターの大群だなんて怖い……
 それで? その後どうしたの?」
「真理奈がグリズリーに鉄の爪で止めを刺したの」
「すげー! オレも武道家になろっかなぁ〜」

森の中の小さな広場。
その中央に位置する岩の上で3人の子供が話をしていた。
3人は肩を互いに合わせて、背中で三角形を作るようにして座っている。
その為それぞれに方々を向き、顔を見て話す事が出来ない。
けれどそれ故に絶えず会話をし、相手の事を感じようと努めているようにも見える。

「フィリアは? どんな呪文が使えるの?」
「ホイミとかバギとか」
「いいなぁ〜オレにも教えてくれよ」
「さっきは武道家になりたいって言ってたじゃない」
「呪文も使える武道家になりたいんだよ……
 フォルテはいちいちうるさいなぁ……」
「ソールが子供なだけよ」

フォルテと呼ばれた少女はエルフという種族の者だった。
エルフという言葉に付いてまわる人間の中でのイメージでは大抵、
大人しいだとか、怒る事がないだとか、
まして何かを憎んだりはしないなどという、まさに聖女のように言われてしまう。
少なくともフィリアが本から得た知識ではそのようなものだった。

しかし実際に目の当たりにしてみると、いかにそれが想像であるかが分かった。
それは同時に人間とエルフとの接触が皆無に近い事をも意味しているだろう。
その点フォルテはエルフという枠組を外してしまえば人間の女の子と変わらなかった。
ちなみに本名はフォルティスというらしいが、普段はフォルテで通しているらしい。

「砂の街かぁ……その土地にはエルフがいないのね」
「……どうして分かるの?」
「だって自然の手助けをするのがエルフの役目なんだもの」
「フォルテもしてるのか? 自然の助け」
「うん。だってエルフだもん」
「凄いなぁ〜オレもやってみたいかも」
「もう! ソールったら」

フォルテが口に手を当て、肩を揺らして笑う。
その様子が背中を通じて他の2人に伝わった。
笑われたソールはからかわれた事が分かったのか、つまらなさそうな顔をする。

ソールはノアニールに住む少年で、フィリアを助けたのをきっかけに仲良くなった。
大人のような言い方を時折するが、どうしても背伸びをしているようにしか見えない。
しかしそれは自分が子供である事を十分に知っているが故の行動とも言えるだろう。
成長を待ち望んでいる、そんな思いが垣間見れる男の子だった。
それがフィリアの2人に対する人物評価だった。

「結婚? 結婚って何?」
「それはあれだろ? ずっと一緒にいるって事だろ?」
「男と女が協力して新しい家庭を築く事」
「へぇ〜素敵ね。じゃあ結婚式は??」
「それはあれだろ? お披露目だよ、お披露目」
「ルビス様や親しい人達に結婚を誓う事」
「へぇ〜国同士で開かれる結婚式なんてどれだけ豪華なんだろう!」
「それで? その後どこ行ったんだ」
「まだ早いよーもっと詳しく聞かないと!」

そして2人共フィリアよりも数年幼かったが、フィリアよりよく喋った。
フィリアが世界を旅している事を知った2人は、どんな街があるのか、
そしてフィリアがどのような体験をしたのかを盛んに聞きたがった。

2人が関心して聞くので、フィリアも話す事を内心は楽しんでいるようだ。
ソールとフォルテの会話の途切れを探しては話題を提供していった。

「なるほどね〜1人でぶらついてた時は何してるんだと思ったけど」
「でもフィリアねぇがここに寄ってくれたおかげで色んな話が聞けて良かった」
「私もエルフに会えて嬉しい」
「……ねぇ、結婚するには何が必要なの?」
「何だよ、突然」
「ソールには聞いてないよ。どうせ知らないんだから」
「知ってるさ! 男と女と神父様だろ」
「……合ってる? フィリアねぇ」

不安そうなフォルテの問いにフィリアは少しだけ考え、
それが最低限必要なものだという結論を出し、大丈夫と答えた。

「ほら見ろ」
「……じゃあさ、結婚式しましょ!」
「は?」

フォルテが2人の方に向き直り、決定だと言わんばかりに告げる。
突然の提案にソールとフィリアもフォルテの顔が見れるように体勢を直した。

「男オッケー、女オッケー。
 神父様はいないけど、フィリアねぇ僧侶だからそれでいいよね?」

ソールを指し、自分自身を指し、最後は言い含めるようにフィリアの腕を掴む。

「分かってないなぁフォルテ。結婚っていうのは愛し合う男女がするんだぞ」
「あら、ソールは私の事好きなんだからいいじゃない」
「ばっ! いきなり何言ってんだよ!」
「ほら、何も問題なし」
「まだ何も言ってなーい!!」

赤くなりながら弁解するソールをよそに、フォルテは決意を固めてしまったようだ。
嬉しそうな笑顔をして、立ち上がる

「はい決まり! さっそくママに報告しなきゃ! 行こっ!」

そう言いながらフォルテは2人の腕を引き、岩を降りるように促した。

「おい! 引っ張るなって!!」

3人は風のようにして森の中へと消えていった。

「へぇ…スゴ。木がそのまま家になってる……」

ほぉ…とフィリアの口からもため息が漏れる。
フォルテに連れられて森の中を進んで行くにつれて雰囲気が変わっていった。
初めは近寄りたくない気持ちが足をすくめたが、
少し我慢していると何とも清々しい空気に全身が包まれた。

「ようこそ、私達の里へ」

フォルテが駆け足の状態のまま振り返り、
両手を広げてソールとフィリアに歓迎の意を示した。

「ここがフォルテの……」
「おじゃまします」

ソールは感動のままに、そしてフィリアは律儀に挨拶をして里へと入る。
その姿を見た数人のエルフが怯えるように姿を隠そうとした。
フォルテはその様子を少し悲しそうにして見ていたが、
2人にはそれを悟られないようにと、笑顔を絶やさなかった。

「エルフに会った時も感動したけど……これも言葉に出来ないものがあるな」
「綺麗なところ……」

ソールとフィリアは人間の世界とは違う何かを感じて、
何をしに来たのかを忘れる程に目の前の風景に見入っていた。
一本の木だけを見ても、それが瑞々しいのが感じられるのだ。
空気は澄み切っているという表現が最も相応しい。

「こっちよ」

2人の手を引き、ずんずんと進んでいくフォルテ。
と、その歩みが突然止まり、2人はフォルテにぶつかりそうになる。

「どうしたんだ?」

ソールがフォルテの目線の向こうに目をやる。
小さな階段の先、1人の女性が冷たい目でこちらを見ていた。
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