暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Jacob's Dreame〜[2-8]
「そっか」
起床。
無意識に紡がれた言葉で目を覚ます。
ここのところ、寝坊しなくなった。
変な夢ばかり見る。
いつもはそれでももっと寝ていたいと思うが、今日は違う。
行かなくては。
やらなくては。
今なら出来そうな気がした。
二日酔いの影響も無く、素早く着替えを済ませる。
そして部屋を飛び出し、真理奈は武器屋に向かった。
「おじーちゃ〜ん」
「何じゃうるさいのぉ」
「おじーちゃんおじーちゃん! お願いしまっす!!」
「……そうか」
店主は真理奈の顔を見て、準備が整えられた事を悟った。
「ではやるか」
「うん」
店主は炉を使用可能にする為、薪に火をくべていく。
折れた爪を溶接する為には、まず炉で鉄を熱しなければいけない。
数千度というレベルで鉄と鉄を「くっつける」のだ。
「武器とは何ぞや」
よし、とつぶやいた店主は真理奈に問いかける。
「ん〜前まではただの道具だと思ってた」
「武器は道具じゃ」
「でも心があるよ?」
「その通り。武器の武とは、心の事じゃわ。そして武器の器はうつわ。
武器とは心の器という名の道具」
ごうっ、と炎が溢れ始める。
爪と爪のかけらを炎の中で熱していく。
「その心が一つになれば、一心同体。
ならばその一心、成すがよい」
押さえておれ、と真理奈に指示をする店主。
真理奈はそれに無言で応える。
「やるぞ」
汗がしたたる。
鉄を叩く音が響く。
爪が鍛接されていく。
その作業をじっと見つめる真理奈。
店主の動きを見逃さないように気をつけつつ、
鉄の爪の心に触れる。
(失恋したんだね。
私も泣いちゃったよ?
でも恋したのは無駄じゃないよ、きっと。
だってその想いは私に受け継がれたんだもん。
その想い自体を叶えてあげる事は出来ないけど……
共有する事は出来たよ。
だから……
だから私に力を貸して?
今度は願いが叶った時の喜びを一緒に体験しようよ。ね?)
真理奈の心に呼応するように、鉄の爪は光を放った。
©2006-AQUA SYSTEM-