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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

再会[1]
明け方。
フラフラと千鳥足で俺は鳥居の洞窟へ向かった。手には一等うまい酒を持って。
デカブツの話を色々聞いた。
古く遡ってはこの国の守護神として崇められていた事。魔王の魔力により暴れだしそれを勇者の親父達が封印した事。
魔王に操られ暴れて封印され今度は権力者にいい様に扱われ挙句の果てに殺された…正直何が悪なのかなんて俺にはよくわからない。
ただコイツにはうまい酒を飲ませてやりたい。それだけだ。

洞窟の前に立つ。

その辺の岩を切り出して背丈程の石碑を造った。そして上から酒を注いでやる。
…………………。
持ってきたグラスに自分の分も注ぎ無言で乾杯した。
…………。
少しばかり感傷に浸っていた。


なんだか背中の辺りがゾワゾワする。気持ち悪い。
さすがに飲み過ぎだろうか。……いや酔いとはまた違う。この感覚は…覚えがある。
不安が疑問に変わり疑問が確信に変わる。咄嗟に持っていた小さなナイフを抜き身構えた。
吐き気がする程の嫌な感覚。目の前には当然のようにあの魔術師が立っていた。

久シぶりだナ。

聞き覚えのある懐かしい声で声をかけてくる。そしてゆっくりと顔を覆うフードを外す。
そう。この声この顔は…ひとし君だ。暴走族時代の連れで親が極道だったひとし君。
年齢は上だけどいつのまにか同級生になりそして後輩になったひとし君。とにかく危ない男だった。
俺以外とは殆ど口を聞く事なく何を考えてるのかわからない男だった。
喧嘩に日本刀や拳銃を持ち出して「限度」ってものを知らない男だった。
そしてついには動機不明で親を殺し刑務所の中で自殺した。俺が知っているのはここまでだ。

懐かしくそれでいて禍々しい声で続けて話しかけてくる。そのギャップに頭がおかしくなりそうだ。

理解できナいと言った顔ダな。
おまえが知ってルのハ私が親を殺し自殺した所まデか。
そウだな…なぜ私ガ親を殺したか解るカ?

解るわけがない。何とか平静を装い話を理解しようとする。
ひとし君は続けた。

それはあの人達が私の飼っていた鳥を殺したんだ。おまえは極道に生きるには優し過ぎるってな。

そうだ。そういえばひとし君は異常に鳥を可愛がっていた。
喧嘩では徹底的に相手をいたぶる反面、動植物には異常に優しい所があった。いや、しかしだからって…

まだ解らないと言った顔だな。そんな鳥くらいで親を殺すかと思うか?
鳥より人間の命が重いとでも?そもそも鳥と人間どっちが偉いなんて誰が決めた?

ダメだ。この声を聞いていると本気で気が狂いそうになる。

私は考えたよ。もし鳥に人間以上にの腕力があれば立場は逆転してたんじゃないか。
例えば私が拳銃を持った時あの人たちは虫ケラ以下の存在なんじゃないかってね。

何を言っているのかさっぱりわからない。わかりたくもない。きもちわるい。
あたまがおかしくなりそうだ。このこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえは
このこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえはこのこえはこえはこえはこえはこえはこえはこえは

結局の所悟ったのだよ。弱い奴は強い奴に殺されても文句は言えない。
強い奴が全てなんだ。弱い奴に生きる権利なんてないんだってね。
夢を見たんだ。そこでは人間は人間よりはるかに強大な存在に脅えながら暮らしている。
時にその強大な存在は理不尽に、簡単に、無慈悲に人の命を奪う。
その行為はむしろ自然の摂理に則った美しい行為だとは思わないかね。
私は心から力を望んだ。弱い存在を蹂躙したかった。強く強く気が狂う程強く願ったんだよ。
そうしてある日目を覚ましたらそこはいつもの独房ではなかった。
暗く重い空間の中で目の前にいたのは世の中の全ての恐怖を凝縮したような存在だった。
すぐにそれが強大な存在だと理解した。
言葉のやり取りは無かった。だが意志は通じた。私は力を求め彼の存在は絶望を求めた。
私は彼の存在の力を与えられ絶望を生む事を約束した。

人は脆い。絶対的な存在の前では虫ケラと変わらないくせに愛だの希望だのを語る。
なんとも滑稽な生きものだ。そうだな。滑稽と言えばあの町で会ったあの老人。
自ら命を絶ってまで私の存在を消そうとしたが犬死だったわけた。
カッカッカ…無力とは罪なものだな!

ひとしィィィィッ!!!!!!てめええええええェェぇええッッっっ!!!!!!

犬死…その一言で正気に戻った俺は殴りかかった。手ごたえがまったくない。

もっとだ…もっと怒れ…
あの勇者と共に人々に希望を植えつけろ…絶頂までにな…
待っているぞ。その時まで…

そうしてあの魔術師は消えた。

あいつの言葉一つ一つが激しく心を揺さぶる。
俺のやろうとしている事は結局あいつと同じなのだろうか。強い奴が生き弱い奴は死ぬ。
………わからねえ。
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