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総長◆Lh6WfP8CZUの物語

顔がいい奴が憎い[3]
勇者と出会う。

やめろ。

墓を掘る。

やめてくれ。

魔物と鉢合わせる。

もういいだろ。

俺達は命ギリギリで魔物を倒しそこへ増援が現れる。

絶望。

そしてじいさんの決断。

やめろおおぉおおお!!!!!!!!!!


しかし俺の声は届かない。激しい閃光と共にじいさんは魔物のと共に塵になった。

その後何回、何十回、何百回とその場面がフラッシュバックする。気が狂いそうだ。

俺は自分の弱さを呪った。俺が、俺が強ければ。もっともっと強ければ。
この先旅を続けるとまた誰かが死ぬのかもしれない。それはそれで仕方ないだろう。
強い奴が生き残り弱い奴は死ぬのだ。当然の事だ。だが、だが俺は納得できない。
自分の舎弟が俺自身の弱さの為に死んでいくの事など納得できるはずがない。強くなりたい。
誰よりも圧倒的に強くなりたい。俺は心の底から力が欲しいと渇望した。

思えば俺の人生は「強さ」へのあてつけだった。親父は小さな工場の社長だった。
豪気な性格に腕っ節の強さ。けっして裕福とは言えないがそんな親父を慕って
従業員も集まり幸せに暮していた。

だが突然王手の企業がそこに大きな工場を建てたいと言い出し親父に立ち退けと言ってきた。
無論親父は断る。そこから執拗な嫌がらせが始まった。裏に手を回され受注は激減した。
雪ダルマ式に増える借金。従業員も一人、また一人と去って行く。おふくろは過労で倒れた。
そしてそのまま帰らぬ人となった。あろうことかあいつらは俺のチームにまで目を付けた。

「鬼浜爆走愚連隊という暴走族は薬の仲介をしている」

事実無根のでっち上げだ。しかし世の中金というもので事実なんてどうにでも変えれるらしい。
俺は無実の罪で刑務所に入った。獄中に一通の手紙が来る。

親父が死んだ。


「 リュウジへ

 おまえが無実なのはみんな知っている。
 馬鹿で喧嘩っぱやくて暴れまわっていたが薬なんぞに手を染めるようなまねは絶対にしない子だ。
 俺が保障する。
 おまえが仲間を守るため一人で無実の罪を被り刑務所に入った事を父は誇りに思う。
 世の中汚い奴が多いがそんななかでもしっかりと自分の信念を貫いて欲しい。

 日頃命は粗末にするななんて言っておいておかしいかもしれないが
 おそらく私はもう長くない。最後に大きな花火を上げて一足先に母さんの所へ行く事にする。

 工場は閉める。借金の事は何の心配もしなくていい。
 刑務所には入っているが、出てきたら堂々と胸を張って歩きなさい。
 リュウジの人生に何一つ負い目を感じる所はないのだから。
 自分のやりたい事を見つけ、精一杯生きなさい。父は母さんと天国から見守ってるぞ。

   父より 」

出所してから知ったのだが親父は自分の保険金で借金を返済した。
死因は原因不明の事故らしい。おそらく事故ではないだろう。
俺の工場兼実家はもう無くなっていた。その無くなったという事実が全てを物語っている。
そこにはただ馬鹿デカい無機質な工場があるだけだった。

そこからの俺の人生はひきこもり酒に溺れる毎日だった。
自分を責めた。身の危険を覚悟で交渉に行ったのかもしれない。
もしくは何かしらの弱みを握られて呼び出されたのかも知れない。一つ確実なのはその時に決死の覚悟でこの遺言ともとれる手紙を残した事だ。今となっては何が真実だろうとどうでもいい。
無気力でただ過ぎるだけの毎日を送った。いつ死んでもよかった。
………そして何の因果かこの世界に迷い込む。
俺はずっと考えていた。ベランダから落ちて何故あのまま死ねなかったのだろうか。
これはもしかして神様とやらがくれたチャンスなのではないだろうか。
結局この世界も元の世界と何も変わらない。
強い奴が弱い奴を喰いものにし、弱者は弱者で勇者にただひたすら救いを求める。

どっちも腐ってる。

なら自分で理想の世界を創ればいい。魔王を潰し自分がこの世界の覇者になればいい。
もう誰も俺の「弱さ」のせいで死なせたりはしない。

急に視界が変わる。
見下していた自分の視点に戻ったようだ。
じいさんが魔物へ向かって駆け出そうとした瞬間、俺が遮り逆に魔物の前に立つ。
目を閉じ精神を極限まで集中させる。

魔物のが一斉に飛び掛かる。
時間が止まる。いや、微かに動いている。自分以外の感覚が全てスローモーションになったようだ。
やるべき事は分かっている。心に思い描くまま叫んだ。


マダ ンテッッッ!!!!!!!!!!!!!!


叫び声と共に強力な光が発生しそれは球体となり魔物の群れの中心で爆発した。

閃光で視界が無くなる…
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