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◆I15DZS9nBcの物語
[すりりんぐぶれいぶはーと]

第一話(3)
全てのモンスターに言えることだが一目見ただけで理解した。
あれこそがただ暴力に特化した存在であると、その中でも目前の敵はその更に上を行くことを。
軽く見積もって3m、笑えるまでに逆三角形とそれでぶん殴られたらスイカみたいに弾け跳びそうな棍棒。
俺の鉄拳クリティカルヒットしたはずなのにびくともしない絶対装甲に涙しそう。
あれは無理だ、レベル差が激しすぎる。
「棍棒?嘘だ!!それ電柱だろ常識的に考えて」
風を切る音とともに俺のすぐ横に強烈な音ともに地面が爆散する。
曖昧3cm、人が見ていなかったら漏らしてたぞ多分。
幸い、突然の介入者によってモンスターの意識が削がれたのか悲鳴を上げた人物は無事だった。
ここで俺は落胆した、どうみても気絶したジジィですありがとうございました。
「ちくしょう、ここは美人の姉ちゃんのフラグが立つところだろ、この世界は優しくない!!」
知能が低いとは言え戦闘種族、あまりにも的格な攻撃に怯みながら避ける、避ける、避ける。
この優しくない世界で俺はひたすら逃げまくったせいかレベルアップ時にすばやさだけ極端に上がったようだ。
少なくともあんな大雑把な攻撃当たってたまるものですか!!

ジジィを背負い、走り出す十の夜。
軽いことは軽いが追撃がヤバイ、あの体型でありながら愚鈍とは言い難い。
多少地形的に有利であるが何あのブルドーザー、木々へし折って走ってやんの。
後ろを振り返り、何とも言えない形相で追跡を行うモンスターを見る。
「どう考えても弱点はあの目だろうな、あそこだけが筋肉に覆われていないんだし」
石でも拾って投げつければ若干足が止まるかもしれない……が、ピッチャー返しが一番恐ろしい。
あの筋肉で勇者の投げた石が返されたら力積的に考えてどうなの、俺死ぬの?体に穴空くの?
木々の枝をつたいながら忍者気分、こっちがあちらに優位なのって結局機動力だけなんだよね。
しかも石を回収するには下に降りなければならない、となるとヤツの棍棒の攻撃圏内に入るってことだ。
「却下だ、却下、無理ゲーすぎて困る、そんな上手くいくわけがない」
俺にとって最良の選択肢はアレに見つからないこと、でなければ詰む。
この勝負始まる前から勝敗が決していてガチハードモード、つか息が切れそうなんだけど。
なぜアリアハン周辺であんな高レベルモンスターが居るんだ?
ルーラが使えるほど知能があるとは思えないし、かと言ってあんな存在は見たことがない。
というよりも、強力なモンスターの発生はスライムやおおがらす、いっかくうさぎにとっても脅威になるわけで。
モンスターの世界も弱肉強食、共食いなんてざらですよ。
つーか種の根源的に考えて共食いよりもまず自分より立場の低いものから食うわけだろ?
なのにモンスターはわんさか居る、雑魚モンスターすら駆逐できない人類があんなバケモノを間引くなんてことはありえない。
「となると、外来種である可能性が高い、誰が持ち込んだんだよあのバケモノ」
うすら寒い、待てよ、そもそもアレはこの世界に存在して良いものか?
記憶が曖昧だから不確かだが、そもそもVには……

「あぶねっ!!」

爆裂音と共に足元が揺らいだ、雑念俺殺すとか洒落にならない。
逃走時に余計なことは考えたららめー。
しかし、じり貧すぎて困る。装備が布の服って時点でファンタジー舐めてるけど誰か剣プリーズ。
ナイフでもあれば一方通行ブーメランでも作って装備するんだが。
あー、そういやジジィ泡吹いて痙攣しててキメェ。

「おーい、じじー起きろー死ぬぞー、足あるんなら走れー」
まあ、腰抜かして気絶するようなジジィに走れというほうが酷だが。
ぶっちゃけ起きてくれたらうれしい、惚れるとか惚れないとかそんな問題は抜きで。
気絶した人間は重心が安定しないというか、なんというか、こう、違う。
ぐにゃってるわりには硬いし持ちにくい、質量的には俺のほうが小さいわけで、何この10歳児。

「町でも逃げ込んで衛兵やら傭兵を引きずりだすか、却下だな、国家転覆ーとか言って打ち首にされかねん:

そもそも装備の関係上アレに対抗するべき手段がない。
アリアハンは恵まれている、モンスターの驚異度という点で見れば。
銅の剣さえあれば訓練を積んだ兵士なら倒せる敵しか発生しないからだ。
だから……強力な武器が流通しない、王は魔物も恐れるが――

人間も恐れる

過度の装備はそれだけ王政を脅かす、魔法使いの反乱を抑えられなかったのも理由の一つにあがる。
反乱、というが実質的に考えれば革命だ、まだ人間の世の頃、平和を享受している時、革命が起りかけた。
この平和な世界に王は必要ない、むしろ重税を課す王は悪であると。
魔法使いとはすなわち貴族や僧を除けば限られた有識者だ、人による人の支配の否定を行おうとしたのだ。
それがどれだけこの世界に激震を与えただろうか、支配階級にとってその特権を失うことは一番恐ろしいことだ。
はっきりと言えば死よりも恐ろしい、だからこそ驚異度の低い地方では武器の持ち込み制限がある。
身を護るのは当たり前のことで武器は比較的手に入りやすい、これを取り上げては不満は募る。
しかし、それが度を過ぎるのはよくないと考えた。
特例を除いてこの辺の傭兵たちはろくな装備を持っていない、エンチャント装備なんてもっての外だ。
あれは道具として使用すれ半永久的にば魔法を行使することできる魔法使いたちの残した最高の置き土産、その所持は極刑に値する。
魔法とは生物の内部エネルギーたる魔力を燃焼しこの世界に働きかけ、特異な物理現象を引き起こす。
エンチャント装備はその法則を覆し、魔法を使えないものたちとの垣根を破壊する。
もっとも、それらを造るには遺失技術と希少価値の高い物質が必要らしいが……。

「って、またトリップしちまったじゃないか、思考トラップはマズい」
その罠を自分で仕掛けたとあってはお話にならないとも言う。

「う、うぅぅ……」
胸元でうめき声がした。
あージジィもう少しで覚醒ですか?いまどき眠り姫なんて流行んないからさっさと起きろと。
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