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◆Y0.K8lGEMAの物語
[第十六話]

唯彼独尊[2]
「こんの化け物どもが!!」

受け入れてもらえませんでした。
むしろ、殺気立った村の住民に囲まれてピンチ。

まぁ…受け入れてもらえないのも当然と言えば当然なんだが、間の悪い事に自分達で魔物を討伐しようと、俺達の後から洞窟に入った村人がいたらしく、さらに、その村人にサトチーがゲレゲレを懐かせた所を見られたらしい。

その場面だけ見たら村を荒らした魔物の一味と勘違いされても当然なんだけど…

「ゲレゲレが村に迷惑をかけたことは許される事ではありません。ですが、彼は完全に改心しました。これからは村に迷惑をかける事も…」
「お前らと話すことなんかねえ!!」

ごつっ!!

「サトチー!!」
「おのれ!無礼な…」

村長が投げつけた茶碗が額に当たり、サトチーの言葉が強制的に中断される。
周囲からは『化け物』だの『火炙り』だの物騒な罵声が浴びせられ、鎌やら鋤やらを手にした村人達は、自分達の言葉でヒートアップして暴走寸前。

―なんだよこれ…本当なら村を救った恩人として感謝されてもいい場面じゃねえの?

「駄目だ!手を出すな!!」

額から一筋の血を流したサトチーが片手で俺達を制する。
爆発しそうになる感情と、喉元から漏れ出しそうな怒声をぐっと飲み込む。
同じ様に耐えているブラウンは涙目で全身をわなわなと震わせ、固く握りこまれたピエールの両拳から滴る緑色の液体が床をわずかに湿らせる。


「駄目だスミス!村の人たちを傷つけては…」

意外…サトチーの制止に従わず、殺気立つ村人達の前に進み出たのはスミス。
相変わらずの無表情からは一切の感情を読み取ることはできないが、その気になれば息を一つ吐くだけで、この部屋丸ごとガス室にできる。

「スミス…駄目だよ…」

懇願するように搾り出されたサトチーの声。
その声を背に受けたスミスは首を僅かに傾ける。

「…案ずるなサトチー卿…私はこの者達を傷つけるつもりはない……そして…この者達も私を傷つけることはできぬ…であろう?村長…」

ゆるりと歩を進めるスミス。見る見る青ざめる村長の顔。
何か、とてつもなく恐ろしい物を目の当たりにしたような強張った表情。
その乾いた唇を呼吸困難の金魚のようにパクパクとさせている。

「…気付いたか?…では選択しろ…私と共に灰と化すか…和平か…」

しん…と静まり返る部屋。
殺気に満ちていた村人達も、村長とスミスの間に漂う異様な雰囲気に飲まれたように微動だにしない。

「…で………いけ…」

村長の乾いた唇から微かに漏れ出した声は形になっていない。
すぅっと一息、大きく深呼吸をした事で、村長の言葉がようやく形を成す。

「…出て行け!一秒でも早くこの村を去れ!!」


「…ご迷惑をおかけしました。僕達はゲレゲレを連れて村を出ます」
「この…疫病神ども!二度と村に近付くでねえ!!」

―言われなくてもそのつもりだ。気分悪りぃ。
もし、どっかの魔王に『世界の半分をやる』って言われても、この村だけは熨斗をつけて返品してやらあ。

「…みんな、行こう…」

額の傷口を押さえるサトチー。赤い鬣をしおれさせたゲレゲレ。
その背に乗るブラウン。怒り心頭のピエールの順で村長の小屋を後にする。

「…貴様等は…何度でも同じ事を繰り返すのだな…」

俺の前を歩いていたスミスが、村長の小屋を出る直前に呟いた。
ゆっくりと殺気立つ村人達へ向きなおり、濁った声を投げかける。

「…新たな流れを模索する道の中…堂々巡りを望むのならそれも良い… …独楽鼠のように永遠に同じ場所を回っていろ…」

―何を言ってるんだ?

「…行くぞイサミ…変化を拒む愚者にかける時間など無為だ…」
「お…おう」

スミスの言葉。どんな意味があるんだろう?
聞いたところで曖昧にはぐらかされるか、俺には理解できないかだろうけど…
永遠に同じ流れ…新たな流れ…俺は大事なことを忘れている気がする。

誰も言葉を発しようとはしない。
ただ、それぞれの胸の内に悶々とした物が広がっているのが言葉以外で感じ取れて…

「みんな…辛い思いをさせてしまって…すまない」

サトチーが静かに…口を開いた。
一番辛そうなのは、他の誰でもなくサトチーなのに。
その横ではゲレゲレが ぐぉん―と力なく喉を鳴らす。
ふさふさの尻尾を足の間に巻いて、叱られた犬のように目を伏せている。

「違うよ。ゲレゲレが悪いんじゃない…少しイタズラが過ぎたかもしれないけど、ゲレゲレも、あの村の人達も、もちろんみんなも、誰も悪くないんだよ。みんなに辛い思いをさせたのは僕の不甲斐なさだよね…」

サトチーがそのしおれた鬣の中にふわりと手を入れ、優しく撫でてやると、伏目がちだったゲレゲレがふにゃあと甘えた声を出した。

「サトチー様は我々を愚弄されるのですか?」

荷物を積み込んでいたピエールがその動きを止めた。
その声はいつもの忠臣ピエールの声ではなく、心なしか怒りの色を感じさせる。

「私にとっての誠はサトチー様に身命を賭してお仕えする事。サトチー様を否定する事は我々の誠を否定する事。それは即ち我々を否定する事。それが…サトチー様自身によるものだとしてもです」

…なるほどねぇ。やっぱ、ピエールは忠臣だわ。
当のニブニブサトチーは真意がわからずに混乱してるみたいだ。

「いや…僕はそんなつもりで言ったんじゃあ…」
「さっき自分でピエールに言ったろ?自分自身を否定する事を今後一切禁じる。信念に従った行動を後悔する事…それも今後一切禁じる。部下に命令したことは自分でも守らねえとな」

そこまで言ってやっと意味がわかったのか、サトチーの顔に笑みが戻った。

「言葉が過ぎました。申し訳ありません」
「いや、ありがとう。ピエール。君達の信念を無碍にするわけにはいかないね… よし!そろそろ出発しよう」
「じゃあ、とりあえず一回ポートセルミヘ戻るってことで良いのかな?」
「そうだね、ポートセルミを経由して次は西の街に向かおう」

ぱちーん!と勢いよく自分の両頬を叩いたサトチーが馬車の手綱を握る。
西日が鋭角に差し込む獣道を走る馬車。
その足取りに迷いはない。




イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鉄の胸当て
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――
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