◆Y0.K8lGEMAの物語
[第二話]
案ずるより鉄拳制裁[2]
「…また何か事故でもあったのか?」
「怪我人が出てるといけない。行ってみよう」
この現場において事故は日常茶飯事だ。
作業の安全対策などは当然皆無。奴隷達は全員満身創痍で注意力も散漫。
落盤・崩落・落下…これまでにも様々な事故があった。
奴隷達の中で唯一、回復魔法が使えるサトチーは事故の度に怪我人を救ってきた。
どんな酷い怪我でも彼がいれば心配する事はない。
今回もきっと…
「な…」
現場に着いた俺達は想像とは違う光景に言葉を失った。
ケタケタと笑いながら鞭を振るい、動けない奴隷を痛めつける二人のムチ男。
それを泣きながら止めようとする一人の女性。
それもまた日常茶飯事の光景。
だが、いつもと違うのは、痛めつけられている奴隷…
「ヘンリー!!」
サトチーがムチ男達を押しのけ、痛めつけられているヘンリーを助け起こす。
酷い…
ヘンリーは全身を滅多打ちにされ、体中が赤…を通り越して赤黒く腫れ上がっており、容赦ない鞭で所々皮膚が裂け、痛々しい傷口から赤い物が見える。
意識も既にないようで、サトチーが揺さぶってもピクリとも動かない。
まさか…
でも一体何があった?
俺の知っている限り、ヘンリーは立ち回りがとても巧い。
要領が良いと言うべきか…サボっていても鞭で叩かれる前にその場を免れ、他の奴隷が鞭で痛めつけられている時には得意の弁論で切り抜ける。
その彼がなぜ?
「ヘンリー!! ヘンリー!!!」
「サトチー落ち着け!早く回復魔法を!」
俺の声でハッと我に返ったサトチーの手から癒しの魔力が発せられる。
何度も死に瀕した人たちを救ってきた温かな光。
その光に触れた体から傷や痣が消えてゆく。
それでもヘンリーはまだ目を覚まさない…
まさか…遅かった?
「…ヘンリー…ヘンリー…」
うわ言のように彼の名を呟き続けるサトチー。
俺にはその光景を黙って見ている事しか出来ない。
「…ん…」
ヘンリーのまぶたがゆっくりと持ち上がる。
よかった、気が付いた。
「…ああ…サトチー……イサミもいるのか……へへ…格好悪いな…俺……コテンパンにやられちまったよ…」
「まだ喋っちゃダメだ!黙ってるんだ!」
「…だってさ…アイツ等…よってたかって女の人を…酷いじゃねえか……女の人を助けるのは……親分の役目だろ?」
俺達の後ろからいやらしい笑い声が浮かぶ。
「ヒャヒャヒャ…奴隷の分際で歯向かうからそうなるんだよ。お前等奴隷は家畜なんだ。飼い主に逆らう家畜は処分されて当然なんだよ」
ムチ男達が笑いながら俺達に言いのける。
家畜? 処分? 許せない…
一瞬で頭に血が上って沸点に達する。
「ん? なんだ? その目は。お前も痛い目見たいのか?」
過去にこれほどの怒りの感情を自覚した事があるだろうか。
「イサミ!!」
ムチ男に飛び掛ろうとしたその時、俺の背後から不意に声がかかる。
何で止めるんだよ…サトチー。
「ヒャハハハ…お前はよくわかってるじゃねえか。止めてやって正解だ」
「臆病で卑屈な家畜じゃねえと長生きできねえもんなあ。ヒャハハハ…」
「サトチー…俺、我慢できねえ。家畜として生き延びるくらいなら、ここで人として…」
「イサミ…君は間違ってるよ」
俯いたままのサトチーが俺に静かに語りかける。
間違ってる…何を…?
今日を生きて明日を生きる…って、プライドを捨てて死んだように生きる事なのか?
「僕達は…人として死ぬ事も、家畜として生きる事もない…」
サトチーは顔をあげ、凛とした眼光をムチ男に向ける。
それは…つまり…
「僕(俺)達は人として
今日を生きる!!」
俺達の叫びは見事にハモり、二人同時にムチ男に飛び掛った。
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