タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語
再び
真白な空間にぼんやりと浮かぶ白い影
『あ、あれは…』
手の届きそうなほど遠い箇所に、その影が次第に灰色の人物へと姿を変える
対峙する三つの、見覚えのあるシルエット
禍禍しい男が手を伸ばすと、その情景はぐしゃりと歪む
突如、目の前の弱弱しい男が後ろにある細細とした女を斬る
『俺、だ…!』
何度も何度も、時折り息継ぎながら伝わる殺気と共に斬りつけてゆく
『やめろ…! わからないのか…! 結末は………!』
「タカハシが苦しそうだ… なんとか、早く元に戻せないだろうか」
タカハシの苦しむ姿を直視出来ず、つい漏らす
いままで何十回、何百回おなじ言葉を口にしただろう
聞いたところで答えは変わらないのだが、交わしたかった
「…今はただ、祈り待つだけしか…」
俺は、あの魔物による大襲撃の間、ずっと戦い続けていた
何人かと一緒に戦ったけど、圧倒的なその数には敵わず
終には一人となり、おかしな術でここへ連れてこられたのだ
ここは生気の抜けた人間が集まるまさに地獄
名前を付けてやるなら"絶望の町"
何人かは強い意志を持って自我を保っているが、大半の人間はからっぽだ
どういう事か、話を聞いて廻ってわかった事がある
この世界で少しでも気を抜くと、すぐさま力を吸い取られてしまう
俺もこの状況に心が折れそうになってしまったが、どうにか堪えている
それはここにいるタカハシ、そして姉ミレーユと再会することが出来たから─
「姉さんだってこうして生きる力を取り戻すことが出来た
タカハシだってきっと、戻ると思うんだ」
「ええ、ほんとうに… テリーのおかげね、ありがとう」
こんな状況だというのに、俺は少し気恥ずかしくなって俯いた
そう、姉も他の人間同様、力を抜かれ生きる屍になっていた
俺は傍に、ずっと傍について声を掛け続けた
それはとてもとても、長く、終わりの見えない遥かな時間
姉が立ち、初めて絶望の町を隅々まで見てまわったとき
静かに、だけど苦悶の表情を浮かべ横たわるタカハシを見つけた
その様は姉やその他の人間とは違い、まるで何かに憑かれているよう
「彼もきっと、こうして私達が傍にいてあげれば、私のように力を取り戻すに違いないわ」
「うん…
だけど俺も姉さんも、そして他の人間も戦う力だけは一向に戻らない
話に聞いた"魂の集まる場所"へ行けば、なんとか…
戦う力さえ戻れば…!」
気配を感じた
言葉は途切れ、その正体が判明するまでの僅かな時間─
「どうですか? 様子は…」
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