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タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

二人で強く
「もう! だらしがないんだから!」

メイは怒っていた

今朝フィッシュベルを出発した俺達二人は今、早足で歩いている
左右をうっそうとした森に囲まれた狭い道
どちらかというとメイが先を歩き俺が後ろを追いかける姿だ

メイが怒る理由
それは俺が寝坊し長い時間待たせてしまったからだった

「ほんとにごめん 昨日トレーニングしすぎてきっと疲れちゃったんだよ」
「…しょうがないわね、今回だけは許してあげる 今度寝坊したら一番強力な魔法で起こすから」
「いや、それ死ぬ…」

初日から優位をとられた気がする
かなりの痛手、今後が大変そうだ…

「それから、カンダタさんに言われたことがあるの」
「どんな亊?」

ようやく機嫌を直してくれたようだ

「タカハシは複数の魔物を相手にするとダメだから特訓させろって
 だから私は極力戦わないようにするわ あまり気が進まないけどそう言われたから─」
「え!? そんな…」
「その代わり回復魔法でどんどん回復してあげるから頑張ってね」

なんてことだ
これじゃ今までの旅と変わらないじゃないか
カンダタの言ってることは正しい、んだけど…
せっかく、今度こそ楽になると思ったのに……


しばらく無言で歩く
気まずいな、男ならともかく女の人が相手で無言なんて
もっと良く考えて返事すればよかった
トルネコと一緒の時はいろいろ教えてもらうので話しっぱなしだったし
テリーとは無言でも何も思わなかったのに…

後ろを歩くメイを気にして振り返ると、メイはだいぶ後ろに居た

「あれ?」

あ、そうか
男である俺の方が歩きが早いのか
どうりで静かだと…

急いでメイの元へ引き返し話しかける

「ペース、早かったかな」

俺の歩きについていこうと頑張ったのだろう
少し息が切れている

「声を掛けようと思ったんだけど、思ってるうちにどんどん離れちゃって…」
「そうか、気付けなかった あ、荷物を持つよ」

そう言ってメイの背負う大きな荷物を受け取ろうとする俺

「ありがとう、でも自分で持つわ
 これから長い旅をするんだからこういう事で余計に疲れてしまってはダメ」
「大丈夫か? 辛かったらいつでも言ってくれ」

あー 俺、なんか、なんだこれ
こんな亊思っても言える人じゃなかったのに
トルネコやテリーの影響かな…

「うん、お願いね
 ところで歩く速度をもう少し落としてもらっても、いい?」
「そうしようか、なんか朝からごめん」
「あはは これはタカハシのせいじゃないわ
 さぁ、進みましょう」

歩き始めるメイ
その少し後ろを俺も歩きだした

「ところで、なぜ勇者様の元で修行していたの?」

それは─
話しても構わないが説明出来ないな

「そうだなぁ… 単純に強くなりたかったからだよ」
「ふーん 出身はどこ?」
「出身? えーと…… ライフコッド、そうライフコッドだよ」
「? 勇者様が今いる村ね」

ふぅ
出身地は確かトルネコと示しあわせしたと思ったけど忘れたな
まぁライフコッドへは今回行かないから大丈夫だろうけど
でもこれ以上何か聞かれるとボロが出そうだ

「今度は俺が聞くよ」

話の向きを変えるため俺から質問をすることにした

「いいわよ、なに?」
「うん、ええと…」

あらかたフィッシュベルで話したから特にないな、困った
すると突然、小声でメイが言う

「出番よ、向こうに彷徨う兵隊が三体いるわ」

見ると森と路の間に槍と盾、更に鎧を身に纏った… 身体が、ない?!

「私はすぐ後ろにいるから、思い切り戦ってきて
 三体はさすがに厳しいけど大丈夫、回復魔法を準備しておくから」

思わずキングマーマンにつけられた腕の傷をさする俺

剣も新しくなったんだ、今度こそ倒して見せる…!

鞘から剣を抜き甲冑の魔物へ近付いていく

「…!」

俺に気付いた魔物はしゃべらないが何か、仲間と意志表示したように見えた
と同時に散開する彷徨う兵隊

戦うのはいいんだが、身体がないんじゃどうればいいのか
ん? あの兜の中の赤い光はもしや…

ガシャカチャと俺の前に立ちはだかる甲冑の魔物 動きはまるで機械のようにぎこちない
しばらく間が空き、彷徨う兵隊が三体一度に槍を俺に向け襲ってきた

槍は点だ、更に常に突きだから横からぶつかっても肉が切れることはない
槍は俺を中心に狙ってきているから─

サッと後ろへ下がる 俺の居た位置で交わりあう鋭い槍の先端
狙いを外したその先端が魔法の鎧に軽く当たり俺を押す
その槍が一斉に引くのと同時にオリハルコンの剣を水平になおした俺も身体ごと前へ
まずは右手方向の彷徨う兵隊の兜─ 赤い光めがけ剣を突き、抜くと同時に横の甲冑の魔物へ体当りする

剣は軽く、自分の意図した通り振る舞ってくれる
そのおかげで身体の反応も軽快になった

赤い光を突かれた彷徨う兵隊がガラガラと崩れる
やはり弱点はあの光─
体当りされた魔物は一番左の仲間へガツンとぶつかりふらついている
中身が無いから衝撃を加えただけで全体を揺さぶるのだろう

俺は一気に勝負をつけるべく、オリハルコンの剣を再び水平に構え真ん中の、体当りした甲冑の魔物を狙う
剣尖が兜の空洞へ吸い込まれる瞬間
ガキィイという音と共にオリハルコンの剣はそれ以上前へ動かなくなり、手へ腕へビィンと細かい振動が伝わってくる
彷徨う兵隊は、盾を使い見事に俺の突きを防いでいた

カシッッィン
軽く、それでいて響を持つ音

しまった、一番左手の相手を気にしなかった!
攻撃がかすったか?!

見ると左手にいたはずの魔物は何時の間にかやや後方の位置に移動していた

音と同時、身体に衝撃を感じた俺は剣を引き彷徨う兵隊から少し離れ態勢を直す
が、何かがおかしい
胴の一部が異常に熱い かすったのではなく、これは槍を突き刺されたのだろう
だが目の前に魔物がいる以上、傷を見るため下を向くわけにいかない

「タカハシ!!」

メイの声が聞こえる

「すぐにこっちへ来て、回復を…!」
「いや、大丈夫だ! すぐに片付けるから見ていてくれ!」
「でも!」
「やばくなったら頼む、今はまだいける!」

俺はそう言い放ち、すぐさま身体を動かしはじめた

最初から剣を水平にしたのでは狙いを読まれ防がれてしまう 正直に戦ったのでは勝てない
そう考えた俺は二体の彷徨う鎧が自分の正面になるよう移動する
そして、彷徨う兵隊より少し早く動き始め正面の兜へ剣を突き刺す─ ふりをした
サッと兜を盾で隠す甲冑の魔物
俺は咄嗟に地を蹴りもう一方の、まさに俺へ槍を突き刺そうとしている魔物へ向きその槍先をガキンと払いのける
払われた魔物は俺がまさか自分を向くと思っていないから盾を構えて顔を防ぐなど、出来なかった
前へジャンプするようにオリハルコンの剣を突き出す
カァンと胴体から離れる彷徨う兵隊の兜 同時に赤い光も貫いた
残るは一体、フェイントにひっかかり仲間を倒されたことに腹を立てている様子の彷徨う兵隊
俺は相手に考える隙を与えないため一直線に魔物へ向け走る
彷徨う兵隊が槍を構え─ 突く、と同時に俺はカクンと膝を折り地面へ身体を転がせる
ゴロゴロ転がり進む身体の上を通り過ぎる槍
俺の身体が魔物の一歩踏み出した足にぶつかり、止まる
槍はちょうど突き出し動作の限界へ到達していた
ゴツ
左手を地面に付き上体を起こす俺の動きと同じに鈍い音
崩れる彷徨う兵隊
上体と一緒に突き上げられた右手、その先には天を指すオリハルコンの剣が赤い光を破壊していた

「ハァハァ、やった… 三体相手に勝てたぞ……」

光に持っていかれる魔物の亡骸を見ながら声を発す

「はやく回復を!」

駆け寄ってきたメイが俺の胴、左脇腹の辺りへ手をかざした
脇腹を見ると傷口は見えないが魔法の鎧に穴が空き、滴り落ちる血で真っ赤になっていた
それに気付いた途端、忘れられていた激しい痛みが俺に存在を主張し始める

「うお! イテテテ………」
「動かないで… ベホイミ」

"熱い"とは違う癒しの"温かさ"が傷口を包み込む
徐々に痛みが薄れ血も止まり、完全に再生した

「ふぅ 致命傷じゃない傷だったからよかった…
 お願いだから無理はしないで」

少し、困った顔のメイが言う

「…無理をしてでも倒したかったんだ
 もう、キングマーマンの時のように不様にやられるのは嫌だから」
「でも─」
「たぶんこれから旅をしていくと今の魔物よりも強いヤツらがたくさん出てくると思う
 その時より今、困って頑張って強くなっておかないと─」

自分の弱さを知る、それは死んだ後では遅い
今、まだ相手出来る魔物で学んでおくんだ

だけど"死"という言葉を出すと、現実になる気がして言えなかった

「それに、ベホマがあればどんな無茶したって平気だよ」

地面から立ち上がりながら言った

「…やっぱり私も戦う あなたは一人での強さにこだわっているけど─
 二人で旅するんだから二人で強ければいいと思うの」

これまで一緒に旅をしたトルネコとテリーは戦いを教えてくれる"師匠"だった
だから技術を高めるためほとんど俺一人で戦ってきた
でも今度は違う
お互いの持っている力を常に合わせながら進んでいかなきゃならない
そうする事で困難が困難でなくなるのかもしれない

「…わかった それなら、メイの魔法でどんな魔物も一瞬だ」
「強い魔法といっても連続で何回も発生させる事はできないのよ
 魔力にも限界があるの それでもこの辺りならそんなに消耗せず進めるけどね」

今まで何度も聞く"魔力が尽きる"という意味が理解できない
体力がなくなるような感じなんだろうか?
それよりメイは、俺が苦戦した相手にもそんなに消耗せず倒せるって事だ
さすがはトップクラスの魔力を持つ賢者

「でも、さっきの戦いぶりはかっこ良かった
 ちょっと見直したかな」

少しの含み笑いと一緒に言うメイ
俺はなんだか恥ずかしくて返事をしなかった
もちろん、嬉しい恥ずかしさだ

魔法の鎧は脇腹の薄い部分に穴が空いてしまっている
鎧の下に着ている服にも穴があいていた
薄い部分とは言え金属を貫く槍技 
もしタイミングがずれていたら致命傷だったかもしれない

俺も慣れてきたからあまり思わなくなったが、刃物で刺されたなんて元の世界じゃ大事件だ
そしてその刺された傷は一瞬で治ってしまう
元の世界へベホマを持って帰れたらどれだけ金になるか
"ベホマ先生"とか言われてテレビに出て映画になって歌を出して…

ニヤニヤする俺を見る不思議そうなメイの顔に気付きゴホンと咳一つ
"我往かん"と顔を整え、イシスへの路を進み始めた
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