[] [] [INDEX] ▼DOWN

◆YB893TRAPMの物語

人形劇の舞台裏[2]
扉が閉まる。

静かな屋敷は一変する。屋敷の中には人ならざるものの気配で満ち溢れていた。
サクヤたちの前に泥人形やミステリードールが現れ、襲い掛かってくる。

「サクヤは下がってて!」
セブンとエイトは剣を構える。
二人は襲ってくる人形たちを次々に打ち倒していく。
ザクザクと斬っていく。
しかし人形は何度倒されても起き上がってくる。
サクヤは部屋の隅でその戦いを見守るしかなかった。


――わけではなかった。
サクヤは自分の横のタンスにナイフを突き立てた。
「うがッ!」
悲鳴とともにモンスターが飛び出す。
「あれはパペット小僧!」
エイトが叫ぶ。

「ど、どうして分かった?」
パペット小僧が叫ぶように言った。
「人形がいるからには近くに人形遣いがいると考えるのが自然ではありませんか」
「しかし、隠れている場所まで見破ったのはどういうわけだ」
「人形たちは私に襲い掛かってきませんでした。何故か。それは私があなたの死角にいたからでしょう。私が見えない地にあって誰かが隠れられそうなのはこのタンスだけですからね」
サクヤは淡々と説明していった。

「見つけたのは褒めてやろう。だが貴様一人で何ができる?」
気がつけばサクヤの周りを人形が取り囲んでいた。
「ははっ! お前が得意げに解説している間に呼び寄せた!」
「しまった! 奴の特技は巧みな話術で人を引き付けることなんだ!」
エイトが叫ぶ。エイトとセブンの位置はサクヤを助けるには離れすぎていた。
「俺がちょいと合図を送れば人形どもがお前を地獄に送るのだ」


「うーん。奇遇ですね」
緊迫した空気に場違いな軽い口調でサクヤがしゃべる。
「会話によって時間を稼いでいたのは私も同じなんですよ」
「何だと?」
「そろそろ毒が回ってくるころじゃないですか?」
サクヤがタンスに刺したナイフを引き抜きながら言う。
「これ毒牙のナイフって言うらしいですね。かすっただけでも相手の動きを封じるとか」
「そんな! ひぃ!」
パペット小僧は小さく悲鳴を上げた。サクヤはマグマの杖を構えているのだ。
「何か言いたいことがあれば聞いてあげますよ?」
「俺が悪かった! 助けてくれ!」
パペット小僧の台詞を聞くとサクヤはにっと笑いこう言った。
「確かに聞くことはしましたよ。じゃあ、バイバイ……」

サクヤはマグマの杖を振りかざした。



「こんな状況だと言うのに恐ろしく冷静だったな」
エイトは驚きを隠せない。
「そう見えますか? 背中は冷や汗でびっしょりですよ」
「サクヤ、君って何者なの?」
セブンの質問にサクヤは答える。
「実のところですね、まだ思い出せないのです」
サクヤは続けて言った。
「きっと人に言えるようなことはしていなかったでしょうね」

「石版を集めるいい方法を思いつきました。彼に協力してもらいましょう」
サクヤの指差す先には虫の息のパペット小僧がいた。
マグマの杖でおきた炎は氷の刃によって消されていた。
「石版で元の世界に戻れると言う噂を流せばいんです。彼の話術は使えますよ」
「どういうことだ?」
サクヤの思いつきの解説をするようにエイトが促す。
「異世界から来た人が自分で石版を探し集まるようにする。そうすることで異世界の人間と石版を探す手間がはぶけます」
サクヤはパペット小僧に近づくとこう聞いた。
「協力していただけませんか。そうすれば止めを刺さずに済みますし」
「は、はいよろこんでぇやらせていただきますぅ」
「それは良かった。名前はあるんですか?」
サクヤの問いにパペット小僧が答える。
「あやつりヨシキィと申します」
涼しげな顔で脅迫してくるサクヤによってパペット小僧が仲間になった。
「…サクヤってこの世界でもたくましく生きていけそうだよね」
少し呆れたようにセブンが言ったのだった。
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2006-AQUA SYSTEM-