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◆2yD2HI9qc.の物語

二、目覚め
男は考えていました。

 はたしてここはどこだろう?
 どうして俺はこんな所で寝ていたんだろう、と。

思い切り頭を振ってみてもほっぺたを平手ではたいても、どうしても思い出すことが出来ません。
ようやく理解できたのは、ここがとても古い宿屋であるという事だけです。

「なんだいったい。どういうことだ」

ぐいとベッドを跳ね起き、うろうろ檻にいれられた小動物のようにせわしなく動き回りました。
服装を見るとまるでどこかの山奥に住む原住民のような格好です。

 誰かが着替えさせてくれたのだろうか。
 なんだかわけがわからないし不安でたまらない。
 どうしよう、どうしてこんな事になってしまったんだろう。

ふと、足音がするのを感じます。
男はどきりとし、その場を動くことをやめました。

「ようやく目がさめたんだねぇ」

ばたんと戸を開け入ってきたのは一人の女性でした。

「あ…」
「いいからいいから! ほらほらそんな所で突っ立ってないで、まぁお座り」

がたがたと引きずられてきた椅子へ腰掛け、けれども男はやっぱり緊張しました。
胸がどきどきと鳴るのを感じます。

このまま何も聞かずにはいられない。
どうしても聞かなければいけない。

男は勇気を振り絞って窓を開けている女性へ話しかけました。

「あの、ここは?」

目の奥が痛くなって、手の甲でごしごしこすります。

「ここかい? ここは宿屋だよ」

女性は振り返って腰に手をやり、優しい笑顔で答えてくれました。
その笑顔につられ、男の緊張していた心がするりとほぐれ、口は自然と話し始めました。

「宿屋?! いったいどうなってるんですか!」

 どうしてそんなに乱暴な口を利くんだ。
 自分はもっと落ち着いて聞くはずだったのに。

男はたいへん悔やみました。
ですが女性はやっぱり優しい顔のままで、答えてくれました。

「私にもそれはわからないよ。あんた、何にも覚えていないのかい?
 町の外で倒れていたのを私の友人が見つけて、ここまで運んだんだよ」
 
男は何も覚えていませんでした。
なので、返事に詰まってしまいます。
昨晩は確かに自分の部屋で寝ていたはずでした。
それ以外何も、思い出せないのです。

「いいよ、ゆっくりしておいき。何か思い出すまで私も手伝ってあげるから」

男にとってはここは何か知れない場所で誰かに頼るしかありません。
部屋をうろつきまわっている時から気付いていた事です。
思いもかけない言葉に、男は目元がむずむずするのを感じました。

「…ありがとう」

男は一言つぶやいて、開け放たれた窓から青い空の視線を浴びるのでした。
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