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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

第十四話 さよなら、ばいばい
「ではでは、乾杯!」
「イエー!!」
「乾杯」

乾杯!
その声をかき消すようにグラスを叩き合う。
晴れて呪いから開放された私達は、いの一番に飲み屋へと直行して祝杯を上げた。
アレフのテンションはいつもに増して高く、ビールを一気飲みしてしまった。
けれどアレンやアレフもまた嬉しそうにグビグビと酒を飲み干す。
久し振りの人間らしい食事と飲み物にありつけた事もそうだが、やはり苦難を乗り越えた後というのは達成感でいっぱいになる。
それはグラス一杯では到底満たせるものではない。
だから今日はたくさんたくさん注いでやろう。
酒の席を共にしようという約束がようやく果たされた訳だしな。

「いや〜それにしても楽勝だったな! 一発で消し飛んでやんの」

戦いに勝ったから言える台詞だとツッコミを入れる者はいない。
酒の力も手伝ってか、そんな冗談が心地良い程に私達の気分は高揚していた。

「あそこで君が呪文を使うとは思わなかったよ」
「そうそうそれそれ! よくやったぞしなの! やっぱ俺の指導が良かったんだな!」

まったくその通りだな、ありがとうアレフ。
と、おだてるように言うとアレフはうんうんと満足そうに頷いた。
ホントに面白いヤツだ。

いやしかしアレルの呪文には到底適わないよ。
あれは凄かった……

「そりゃそうだろー、何たって伝説の勇者ロトの称号を持つお方だぜ? ベホマズンにギガデインの二連発だなんて俺でも適わねぇよ」

え?! アレルが勇者?!
アレルに目をやるが、黙って酒を飲むだけで否定しなかった。

「そうですよ、しなのさん知らなかったんですか?」

……誰もそんな事言ってくれなかったじゃないか。
そうやって拗ねてみせると三人に笑われてしまった。
しかしその割にはタメ口で話すんだな。
とても敬ってるようには見えないが。

「まぁ同じ勇者としてそういうのはあんまり好きじゃないって分かってるからなぁ」
「血の繋がった親子関係にあるのに、どういう訳か歳も離れていないようですしね」
「私としては孫の孫が目の前にいるというのはとても不思議に思うよ」

そんな風にして目を細めるアレル。
伝説の勇者か、どうりで強い訳だ。
しかし勇者だらけのパーティーに私が入っていたなんてな。
場違いにも程があると今更ながら思ってしまった。

「しかしなぁ、もうしなのとはお別れか」

時が経ち、馬鹿騒ぎも落ち着いたところでそんな話になった。
あの悪魔が落としていった石版は、例の噂の石版のようだった。
この石版を神殿に持って行きさえすれば願いが叶うという。
その神殿がある場所は精霊さんに教えてもらった。
それはつまり私は私の世界に帰る事にした、という事だ。

「けどその噂、本当なのか?」

ん……まぁその真偽を確かめる為にも神殿に行ってみたいと思う。
そう遠くはないしな。

「そっかそっか、んじゃあ明日キメラの翼を山ほど買ってやるよ。それがあればまた会えるだろ」
「キメラの翼で世界を行き来できる訳ないでしょう」
「そうなのか? じゃあしなのがルーラを覚えてだな」

もう二度と訪れない四人の夜が更けていった。


宿屋への帰り道。
アレフとアレルは疲れたと言って先に帰ってしまった。
だから今はアレンと二人きりだ。
彼の手を取ってみる。

「……しなのさん、酔ったんですか?」

うぅん、私はそうそう酔わないよ。

「でも顔が赤いですよ」

そうか、それは誰かに見られたらマズいな。
隠さないと。
そんな事を言ってアレンに身を寄せた。

「そうやって心の中も隠しちゃうんですか?」

それはきっと返事を聞きたいって事なんだろうな。

……アレン。
君は世界を救った後、やがて一国を担う者となるんだろう?
妃として私は到底相応しくないはずさ。

「そういう逃げ方はズルいです」

当然本心ではないのだからアレンは納得しない。
でも結果としては君の手から逃げるんだから同じだろう?
そんな風に返してしまうのは、まだもう少しでも一緒にいたいからか。
アレンが納得しない限りは側にいれるのだから。

「他の人のところへ帰るんですね」

背中に手を回して逃げれないように捕まえられてしまった。
それで言葉遊びは終わりだと感じる。
だからその胸に顔をうずめた。

「しなのさん……」

アレン、私も好きだよ。
でも君とは一緒に行けない。
やり残した事があるんだ。
だから、帰るよ。

「しな――」

何か言いかけたアレンの口を塞いだ。

「……」

私のファーストキス。
受け取ってくれたかな。

「……やっぱりしなのさんはズルいです」

アレンの話を遮ったからか、一緒にいる事を断られたからか、それとも明らかな嘘をつかれたからか、アレンが寂しそうに目を閉じる。

勇者でも女がズルい生き物だって事は知らないんだな。
私が茶化して言うと、そのセリフには少しだけ笑ってくれた。
しかしな……本気にはしてくれなかったか。
残念だな。

「元の世界に帰ったら、たまに僕の事を思い出して下さいね。僕もそうします」

あぁ、分かったよ。
そう言って彼の体温をいつまでも忘れないように確かめた後、私はアレンの腕からするりと抜け出した。
ありがとう。
さよなら、ばいばい。


――最終章へ――
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