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◆IFDQ/RcGKIの物語
[Stage.12]

リアル・バトル[2]
「あの、もう一本、飲む?」
 恐る恐る聞いてみると、彼女はヒラヒラと手を振った。もういらないのか。となると俺はすることがない。
 コッチコッチコッチ……
 家の中は静まりかえっていて、時計の音だけが妙に大きく響いている。
 伯母さん、なんか動かないんですけど。もしかして寝ちゃったんですか? そんな姿勢だと首をいためるんじゃないかなぁ、とか。
 え―と……。
 コッチコッチコッチコッチ…………
 だぁああああ!! 気まずい!! めちゃめちゃ気まずい!!
 これならおばけキノコとお見合いしてる方がまだマシだぁ!!!!!

 題 【お見合い】
 アルス 「キノ子さん、ご趣味は?」
 キノ子「甘い息を少々」
 アルス 「zzz」
 キノ子「まあ、居眠りするなんて失礼な方ね!」
              〜完〜

 いやいやいや、4コマに逃げるな俺。現実を見なきゃ。
「あんたさ、大学はどうすんの?」
 いきなり聞かれた。
 ちょ、ここで進路相談!!?? え? 俺が答えていいの?
 でも俺がタツミなんだもんな。これからは俺が決めなきゃいけないんだよな。
「――い、行かせてもらえるなら、行きたいなぁ、とか」
 今在学している「高校」の卒業まで約2年。ここからゼロスタ―トだとしても、卒業前までに必要な学力を身につけるだけの自信はある。だてに一級討伐士は取ってないぞ。
 俺の言葉に、伯母さんは「おや?」という顔をした。
「は―ん、行く気になったの。働くってきかなかったのに」
 ここの家庭環境を考えると、ヤツならそう言いそうだな。
「その方があの子も喜ぶだろうね。お母さんに報告した?」
「まだ、だけど」
「じゃあ伝えてきなさいよ」
 くいっと奥のドアをあごでしゃくる。彼女の自室で、まだ入ったことはない。もたもたしてるのも怪しまれるから、俺は素直にその部屋に入った。

   ◇

 照明をつけてドアを閉める。ムッと立ちこめる芳香。化粧品や香水とかの "女" の匂い。
 バックやら靴やら、果ては下着までそこらじゅうに散らばってる狭い部屋の奥に、そこだけきれいに整ってる、不思議な一角があった。
 漆塗りの黒檀に金箔の装飾が施された、東洋版の祠というか。小さな扉が左右に開け放たれていて、各神具の細かい意味はわからないが、それが死者を悼む祭壇だというのは察しがついた。文化の違いはあれど、そこに込められた祈りはどの世界も共通だろう。
 中央に白黒の写真が二つ飾られている。一枚が俺のおふくろによく似た女性で、もう一枚は、親父を少し若くしてひょろっとさせたらこうなるかなって感じの男性。
 タツミの両親に違いない。
 あいつの。
「……やっぱ甘いか」
 二度目のごめんなさい、かな。
 俺もさ、こっちに来る前はありとあらゆることを予測してたし、覚悟もしてた。でも実際、こうして目の前にしてしまうと、なんの意味もないことが思い知らされる。
 俺が? タツミになる? ムチャもいいとこだ。どの面下げてこの人達の供養を引き受けるってんだよ。
 俺も最終的には、ショウが言っていたように適当なところでプレイヤ―の人生を捨てて、ここを離れることになるんだろう。そうじゃなきゃやってけねえよな、とても。
「タツミ、どうしたの?」
 伯母さんに呼ばれて俺はリビングに戻った。怪訝そうにしている彼女に、さっきの話の撤回を告げる。
「あ―……大学のことだけど、やっぱりもう少し考えようかと思って」
「そう。ま、好きにしたらいいわ」
 いくぶん投げやりに言う伯母さん。こういう話し合いは今までにも何度かあったようだ。
 そういや俺もおふくろや爺ちゃんから「本当に勇者やるのか」ってよく聞かれてたっけ。二人とも普段はそれを願ってるようなことを言ってても、やっぱり心配だったんだろう。どこの家庭も一緒なんだな。
「ごめん、ちょっと忙しいんだ。部屋に戻るよ」
 意識的に目を合わせないようにして、俺は背中を向けた。
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