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4の人◆gYINaOL2aEの物語

世界樹[2]
「〜〜……けて……さい〜〜……」

「ん?何か言ったかアリーナ?」

「えいっ!ん?何も言ってないわよ?」

竜巻みたいなものを纏った魔物にコブラツイストをかけながらソロに応じるアリーナ。
似合うなあ。無駄に。コブラツイスト。
まあコブラに限らず関節技なら何でもだが。関節技にこだわらず素手による攻撃ならば。
空耳は大して気に留めず、俺たちは順調に樹の内部を進んでいく。
体力的には俺もだいぶ苦しいのだが、それ以上に何故かクリフトが上に登るにつれて死にそうになっている。
…気球の中でも泣きそうになってたっけな。悲しい事でもあったのだろうか。
だが、泣いたり笑ったりしながら成長することもあるだろう。って誰かが言ってた気がする。

やがて――空一面を、碧が埋め尽くした。
全てが、葉。世界樹の葉だ。太陽の光を浴びて輝く、神秘の葉。
その色は――彼女の髪と同じ色で。俺は涙ぐんでしまっていた。
目の前に彼女の笑顔があるような気がして…こぼれ落ちないように、天を見上げ続ける。

「よっしゲット!それじゃあ早速ソフィアに…」

「いや、ここは太いとはいえ樹の枝の上だし、幹の中に戻ってもまた魔物も出るかもしれない。一度地上に戻ろう」

元々は手に入れたらその場で調合して飲ませるつもりだったのだが。
思いの外安全とも言えない状況だったので、俺たちはその場から一時離脱する事にする。
俺の努力はある意味無駄だった訳だが、何故かそういう気持ちにならない。きっと、背負ってきたのがソフィアだったからなのだろう。

「〜〜〜〜…………!?〜〜〜………っ!」

どこからか焦るような雰囲気を感じるが俺は気にしない。
そんな事は些事だ。ソフィアに勝る有事などないのだから。

アリーナを先頭に駆け下りる一同。
俺は聴こえたような気がした声について、クリフトに訪ねてみたが、聴こえていないのか物凄い勢いで降りていってしまった。
心なしか顔色も悪かったな…泣きそうだったのは…アリーナと何かあったのかなあそういう雰囲気でも無かったんだが…。

世界を支える樹の葉には、倒れたものを再び立ち上がらせる力があるという。
だが、世界樹の葉をもってしても、死者を蘇らせる事はできないらしい。
生者と死者をどこで区別するかなどは俺は興味が無い。
ソフィアが蘇りさえすれば、それで良い。理屈など…どうでもいいさ。
それが例え間違っているのだとしても…ああ、そうだ。この考え方は間違っている。
ミネアに言われずとも自覚していた。
それでも。それでも、構わない。


「で、どうやって飲ませるの?」

「そりゃーもう!こういう時は王子様の口移しに決まってるじゃなーい!」

「妙にテンションの高い女がいるな。阿呆め」

「メラミ」

「ウボァー」

「王子様ってセンスに耐えられるビジュアルの人が少ないですよう」

「ソロは駄目よ!」

「なんでアリーナが駄目って言うの?」

「俺じゃ消し飛んでしまうからだろう」

「後は…半分以上親爺だしー」

「わ、私には…姫様が…ごにょごにょ…」

「なんでクリフトが私に遠慮するの?」

「ちょwwwおまwww」

「鬼がいるな…」

「姫様は昔からそういう子じゃからのう」

「やだ、ブライ。そんなに褒めないでよ。明日槍が降っちゃうじゃない」

「そんなに褒められるのは珍しい事なんですか…」

「もう何でもいいから早く試してみるべきでは?」

「何でもいいって。そんなだからその歳でまだ独身なのよ」

「むう」

「シチュエーションは大事ですよ…今回は特に、大事な事ですから」

「ところで私の時は…」

「クリフト…思い出さない方が良い、ことも、ある…」

「そうですか…」

わいわいぎゃーぎゃー。
賑やかな事だ。どう思う?ソフィア。
こういう時、君がこの中に参加する事は無かったな。
喋る事ができなかった君はいつも、どこか遠巻きに見ていたのを覚えている。
それも無理ない話なのだが。もっとも、仲間たちが騒ぐのを見る彼女は決して寂しそうなだけではなく、楽しそうでもあった。
皆が楽しそうなのを見て、自分も楽しくなる。
俺が、ソフィアが寂しそうにしていないか気になってちらりと確認すると、
彼女は決まって俺に柔らかい笑顔を向けてくれた。
だから今もまた、俺はそれを期待している。

世界樹の葉が淡く光り、俺の手の中から消失した。その時から。

振り返るのが恐ろしい。
そこにあるのは、喜びか、それとも絶望か。

それでも他の誰かに先に確認してもらおうという気にもならなかった。
ソロならばあるいは…とも思ったが、彼にはその気は無いようだった。
恐らくは、俺に任せる、という事なのだろう。他の仲間たちも然り。まるで気づかぬように喧騒を続けている。

意を決する。
意思を固め、意図を明確に、意識を彼女に…向ける。

広がる。
――――碧の光輝、が。

世界を支える樹の葉と同じ色の髪。
ふわふわの、ふかふかな優しい髪が、窓から吹き込む風に微かに揺れる。
少し青い顔をした、けれど、柔らかい笑顔が。
俺の眼の中に――飛び込んでくる。

「……ソフィア」

「……おはよう。おはよう、皆」

俺に。そして、皆に、そう、声をかける。

「おはようございます、ソフィア殿」

「おっはよー!ソフィア!」

「おはようございます、ソフィアさん。今日も良い天気ですよ」

「全く、もう太陽は中天にあるというに。最近の若いもんは」

「まあまあ…偶には寝坊する事もありますよ。ね、ソフィアさん」

「おはようございます。ご飯にしますか?それともパンにしておきます?ああ、まずは飲み物ですね」

「やだ、ミネアったら奥さん気取りね。おっはーソフィア、寝てる間にまた少しすっちゃったんだけど…えへへ」

「…おはよう、ソフィア。食事は面倒くさがらずにちゃんと顔を洗ってからだからな」

皆から朝の挨拶をされ、一つ一つに頷いて。
そうして、最後に彼女は俺を見た。

「……馬鹿野郎。何がおはようだ、このネボスケめ」

「……ごめんなさい」

「ふん。さっさと顔洗いにいけよ、ミネアが作った飯がこれ以上冷めないうちにな」

くるっと背を向け、歩き出す。
顔を、見られたくなくて。

「あっ……」

ベッドから降りようとしたソフィアが小さく悲鳴を上げた。
無理も無い。ずっと眠り続けていたのだから、急に立とうとしても足がびっくりしてしまう。
倒れる――その、間一髪で、少女の腕を捕まえる手。

「何やってるんだよ……馬鹿」

「……ありがとう」

少女は俺の顔の惨状を見て、にっこりと笑ってそう言った。





「あう〜…誰も助けに来てくれない…。ひもじい…」

むしゃむしゃと世界樹の葉を食む孤独な音が、空の中で響いていたが俺たちは知る由も無かった。


HP:112/112
MP:53/53
Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒
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