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◆yeTK1cdmjoの物語

俺の世界
こんにちはこんばんは、俺です。
 昨日はミヤ王を仲間にした後、宿屋で泥のように眠りました。
 平日は日がな一日パソコンとにらめっこしてるような事務職、休日は2ちゃんやゲームが大好きなインドア派。
 全身筋肉痛なのは実に当たり前。……元の世界に戻れたらジムに通おうかなあ。

 そんなわけで俺は今、ミヤ王と一緒にマイラの村に向かっている。
 今のところ出てきたモンスターはスライム、ドラキー、ゴーストといった雑魚のみ。
 ミヤ王のおかげで楽勝www楽しちゃってサーセンwwwwwwwwwwwwwww

「お前は戦いは不慣れなのか?」
 そう訊いてきたのはラダトーム平野とマイラの森を結ぶ橋を渡ってからのことだ。

「やっぱわかるもんなのか?」
「ああ。実戦慣れもしてないが、モンスターの死に対してすら慣れてないようだからな」
「…………」
「図星か」

 そう、俺はまだ殺すことに慣れていない。
 今まで戦ってきた敵は『倒して』終わり。
 完全に『斃して』はいない。

 ミヤ王がドラキーを『斃した』時、無様にも吐き出した。
 滑らかな切り口とすら言える断面から覗く内臓は、健康な人間のそれと同じ色。
 限りなく黒に近い紫色の血。いや、ありゃ体液か?
 鋭利に切断された白いものは骨だろう。
 地面に落ちたショックで飛び出た眼球は白い糸を引いていた。
 鳴き声を発しながら二度三度と痙攣して動かなくなる様を直視することができなかった。

 これが『死』なんだ。

新聞を見ればどこかの国でテロや戦争で死者が出たと載っている。
 テレビをつければ他県の殺人事件の特集を組んでいる。
 だが、俺にとっては『どこかの国』であり、『他県』でしかなかった。
 自分とは無縁の世界の出来事なんだと無意識に思っていた。
 新聞を折り畳めばテロや戦争の記事は目に入らない、テレビを消せば殺人事件の続報は入ってこない。
 決して忙しいとは言えない日常の中で忘れられていくだけの出来事。
 俺にとって『死』とは身近なものではあったが、現実とは遠いところにあった。

 以前、ディルレヴァンガーと名乗る気違いが猫を殺した事件があった。
 ネット上に上げられた殺害の過程の画像は俺も見た。
 すぐに画像を閉じ、なんてことをしやがると憤ったこともある。
 だが、画像を開いたのは俺の意思だ。
 騙したわけでも騙されたわけでもない。
 ディルレヴァンガーが逮捕された時、ニュー速+のスレに誰かがリンクを貼った。ただそれだけだ。
 俺は自分の意思でそれを見たのだ。

 子供の頃、蟻の巣に水をぶちまけたことはある。
 大人になってからも蚊を叩き潰したり、殺虫剤を使ったこともある。
 車に轢かれた猫の死骸を見たこともある。
 だが、それでも俺は自分とは関係ない世界の出来事なんだと思っていた。
 俺にとって、 『殺す』とは無縁の世界だった。

「襲ってくる魔物はためらわずに殺すことだ。そうしないと自分が殺されかねない」
「……ああ」
 それは俺もわかっている。
 この世界では俺のいた世界の常識は通用しない。
 覚悟を決めなきゃ生きていけない。
 動物を殺すのは可哀相と言うのは簡単だ。
 何しろ、自分の命がかかっていないから。
 自分の安全が保障されている世界では真っ当な話だ。
 しかしここでは自分の安全は保障されていない。己の身を守るのは己しかいない。
 ここでは人の命も魔物の命も全てが平等なのだから。

「今ここで実戦経験を積むのもいいが、ゆうていと合流してからの方が安全だ」
「なして?」
「ゆうていはホイミが使えるからな」
「みやおうは使えないのか?」
「自慢にならんが魔法の才能はゼロだ。魔力そのものがないらしい」
「魔力の有無なんてわかるもんなのか。俺はどうよ?」
「ある程度魔力を持っていればわかるらしいんだが、俺は全くないからお前が魔法を使えるかどうかはわからんがな」
「ダメじゃん」
「そう言うな。キムこうならわかる」
「キムこうは呪文使えるのか?」
「ああ。ゆうていはそこそこの魔法しか使えないが、キムこうはかなりの使い手だ」

 みやおう=戦士、ゆうてい=魔法戦士、キムこう=賢者。
 この認識でいいのだろうか。
 だとしたらバランスの取れたパーティーだ。
 不安要素は……俺、だよな。
 うん、頑張ろう。

「実戦に勝る修行なしってことだな」
「お前の世界ではそんな言葉があるのか?」
「by躯」
「?」
「……スルーしてくれ」
 ま、要は『飛影はそんなこと言わない』ってことだ。
 わかる奴だけニヤリとして欲しい。

「マイラに向かいながら実戦慣れでもしていくか?」
「何もしないよりはマシかもな。危なくなったらフォロー頼む」
「任せておけ。――タイミングよく大さそりが現れたぞ」

 ゲームと違って結構グロい上にデカくね?
 つうか、怖えーよ!

「だああ!」
 地面を素早く移動する大さそりを叩き潰す。
 棍棒を通じて殴った衝撃が俺の手に伝わる。大さそりというモンスターの生を奪う感触。
 しかし怯んではいられない。

「浅い!」
 ミヤ王の言葉通り、一撃を食らった大さそりは持ち前の堅さで持ちこたえていた。
 俺の攻撃を屁とも思わぬ動きで砂塵を巻き上げ、視界から消えた。

「しまっ……」
 背後を取られた俺めがけ、尾が伸びた瞬間――
 ミヤ王の一閃。
 大さそりはきれいに半分になっていた。

「サンキュ、助かった」
「気をつけろ。大さそりの外殻はスライムやドラキーの比じゃないからな」
「棍棒じゃ無理か?」
「鍛えればそのうち素手でも貫ける」
「いやいやもっと無理だから」
 そこで見ていろ、との言葉とともに俺に剣を預け、また新たに現れた大さそりと戦闘に入る。
 先の大さそりが斃されたことに腹を立てているのか、大さそりから攻撃を仕掛けてきた。
 ハサミの攻撃を難なくかわし、大股で大さそりに近づくミヤ王。

「ふっ――」
 軽い呼気をもらしただけで、ミヤ王の五指は大さそりを貫いていた。
 あんぐり、の表現はこういう時のためにある。
 まさしく俺はあんぐりと口を開けてミヤ王を呆然と見ていた。

「意外に簡単だろ? さ、やってみろ」
「できるかボケ!」
 みやおう=バトルマスター。
 こうですか!わかりません><

マイラの森に棲む魔物が、素手で大さそりを貫いたミヤ王に恐れをなしたのかどうかはわからない。
 だが、あれから魔物とは一匹も出会わずにマイラの村に到着した。
 途中、野宿したり大さそり相手に苦戦したりゴーストの帽子を取ってハゲなのを確認して大笑いしたり
 スライムを蹴り飛ばしたりミヤ王が百円ライターに感激したりしたが、大して重要なことではないので割愛させていただく。

 普通に歩いてガライから丸一日以上かかった。
 地図で見ると近いが実際は遠いもんだ。ラダトーム→ガライ間をおよそ40分で爆走したのが信じられん。

「ここがマイラか……」
 ラダトームやガライでも思ったが、ゲーム上で見るのと実際に見るのとでは全然違う。
 ゲームではただの緑が多い村でしかないマイラの村は、実に自然豊かな村だ。
 風がそよぐと草花の揺れる音、仄かに香る木々の香り。
 日本では失われているもの――自然との共生がここにはある。……っと、マイラの村に圧倒されている場合じゃないな。

「ゆうていは中央の広場近くだ」
「広場近く……」
「もしかしてあそこにいる戦士じゃね?」
「ゆうてい!」
 俺が指差すよりも早くミヤ王が走り出した。

「……みやおう?」
 戦士は、みやおうの声に驚いた表情を浮かべている。
 どちらかといえば軽装のミヤ王に対し、防具で身を包んだ戦士。
 もし仮にミヤ王がいなくても、彼がゆう帝だということはすぐにわかった。
 やや薄めの頭がその決め手――と言ったら現実世界の堀井雄二は怒るだろうか。
 間違いない、彼がファミコン神拳の一人、ゆう帝だ。

ゆう帝のステータス
攻撃力:あたっ
防御力:あたたっ
素早さ:あたたたっ
髪の毛:あっ……ごめん。――ハゲは病気じゃないよ!悩み無用!!
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