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◆yeTK1cdmjoの物語

俺、参上
「お兄ちゃん、起きて。朝だよ」
「う……う〜ん……あと5分……」
「急がないと8時になっちゃうよ」
「キスしてくれたら起きる」
「……ホントに起きてよ?」

 アホな一人遊びをやめて俺は目を開けた。
 俺には血の繋がらない義妹どころか妹そのものがいねえ。

「おはよう、マイサン」
 しっかりと目が覚めているムスコに呼びかける。股間に話しかける画もかなりシュールに違いない。
 だが許して欲しい。
 ムスコへの呼びかけは精通して以来の日課のようなものだ。
 息子とムスコの違いがわからない奴はぐぐれ。

「9時過ぎか」
 枕元に置いてあった携帯に手を伸ばして時間を確認。
 朝食にはちょっと遅いがホテル内のレストランにでも行くとしよう。
 顔を洗おうとベッドから下りても、ムスコは重力に身を委ねるのを由とせず、地面と平行の姿勢を保っている。
 いつか釘も打てるんじゃないだろうか。

「やらないけどな!」

 洗顔道具を取り出そうとしたが、あるべき場所に鞄がない。
 確かベッド横に置いといたはずなんだが。
 つーか――
「何もなくね?」

 ――騒がしい俺の様子を見に来た宿屋の親父によって、ここがラダトームの宿屋だということを知ることになったのは30分後のことだ。

追記
 さすがにムスコも萎えました。


「なるほど。事情はわかった」
「はあ」

 自分がラダトーム城下町の宿屋にいることを理解してから1時間後、俺はラダトーム城内にいた。
 宿屋の親父に事情を話すとすぐにラダトーム城に連れて行かれ、あれよあれよという間にラダトーム王と対面していた。
 信用するかしないかは別として、俺は全てを打ち明けた。
 とはいえ、寝て起きたら宿屋にいたとしか言えないのだが。
 自分でも何を言っているのかわからんというのに、ラダトーム王は何やら納得した様子でいる。

「かつてアレフガルドを救った勇者ロトも天から現れたという」
「それが俺と何の関係が?」
 うげ、何やら嫌な予感。

「そなたもまた、ルビス様が遣わした救世主なのかもしれんな」
「……竜王を斃して光の玉を取り返せと?」
「竜王を知っておるのか?」
「あー……まあ、一応」

 自分で言うのもなんだが、俺はゲームは勿論のこと、漫画小説ドラマCDサントラカードゲーム、果ては同人ゲームにすら手を染めているほどだ。
 DQのストーリーを知らないわけがない。
 俺の精通は水の羽衣を着たムーンブルクの王女で始まったといっても過言じゃない。
 その後アブない水着賢者、踊り娘の服マーニャ、エッチな下着ビアンカ、エッチな下着バーバラ、アイラを経てゼシカに至る。
 魔法のビキニ賢者や神秘のビキニ盗賊、天使のレオタードマーニャでも捨てがたい。
 7のポリゴンアイラで抜いた時の俺は神が降りていたとしか思えない。
 ……いや違う。そういうことじゃない。
 狂信者ってレベルじゃねえぞ!ということだ。

「ならば話が早い。竜王を倒し、その手から光の玉を取り戻してくれ!」

 ほーら、やっぱりきたよ。
 イヤな予感ってのはどうしてこうも当たるんだ。

「仮に竜王を斃したとして、俺は元の世界に戻れるのか?」
「それはわからんが……他に戻る方法はあるまい」
「……確かに」
 戻れる可能性は五分五分。
 ゲーム中、異世界の話は一切出てきていない。
 EDで勇者とローラは旅に出る。
 ローレシア、サマルトリア、ムーンブルクの三国を建国したのは2で語られるが、その後の勇者の行方は誰にもわからない。
 ローラ姫を抱えて門をくぐったということくらいだったはずだ。――戻れる可能性があるとするならED後しかない。

 ロト編で異世界に移動できるのはルビス、ラーミア=レティス、ハーゴン、マガルギ……後は旅の扉か。
 ギアガの大穴は閉じているはずだし、マサールクリムトコンビは6だ。
 リメ3での神竜はこの時代に生きてるのかどうかも怪しい。
 ハーゴン、マガルギに至ってはこの時代よりも後。
 オルゴも神も7だし……頼みの綱はルビスのみか。

「……わかった」
 王の言いなりになるのは癪だが、それしか方法はなさそうだ。
 竜王よりもルビス目的だがわざわざ言うほど馬鹿でもない。

「おお! まことか! ではわしからの贈り物じゃ! そなたの横にある宝の箱を取るが良い!
 そしてこの部屋にいる兵士に聞けば旅の知識を教えてくれよう」
 現金な奴め。
 渋々宝箱の中から120Gと鍵と松明を取り出した。
 もう少し景気よく出せよドケチ野郎とは口に出さない。

「ローラ姫は取り戻さなくていいんだな?」
 王の返事を待つ前に、俺は階段を下りてラダトーム城を出て行った。
 さて、120Gでどんな装備を整えるとするかな。

 悩みに悩んで結局買ったのは竹竿。
 棍棒を持たせてもらったが重たくてダメだった。
 もうちょっと力をつけないことには持って歩くだけで疲れる。
 そう考えるとレベル1で剣を扱えるDQ勇者すげえ。

 120Gで揃えた竹竿、薬草×3。残金は38Gだ。
 で、俺が持ってた物はパジャマ代わりに着ていたジャージ。あ、トランクスとTシャツもか。
 ドラクエができるからという理由で3年も買い換えてない携帯(N900i)。
 旅のお供のニンテンドーDSライト(ブラック)。
 ホテルに着く前に買っておいた100円ライター×1、タバコ×10。
 着替えや洗面道具を詰めこんだ鞄はなくなっていた。
 どうやらベッドの上に置いてあった物だけがこっちの世界に着たらしい。
 ベッドじゃなくて床で寝ていればこんなことにならなかったんじゃね?

「そうだ!携帯で!」
 ……繋がらない。

俺「もしかして圏外ですかーッ!?」
携帯「YES! YES! YES!」
俺「OH MY GOD」

 ……一人ジョジョごっこに興じる俺は、DSLの画面に文字が現れたことを気付いていなかった。


レベル:1
最大HP:13
最大MP:4
攻撃力:6
すばやさ:8
武器:竹竿
鎧:なし
盾:なし
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