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◆Y0.K8lGEMAの物語

剣魂一擲[1]
天空の剣

嘗て、天より舞い降りた伝説の勇者が用いた剣。
その白金の刀身は、一切の穢れを祓うかの様に荘厳な光を放ち、柄に装飾された竜神のレリーフは、一切の不浄を退けるかの様に鋭く瞳を輝かせる。

天空の剣、鎧、兜、盾が本当の所持者…伝説の勇者の元に揃った時、この世界と魔界との境界が切り開かれる。

…この世界と魔界との境界を切り開く力…
それは、別世界との境界を切り開く力…
もしかして…その力があれば、俺も元の世界に帰れるんじゃ…

「父さんは…根拠のない迷信の類いは信じない人だった」
剣と共に安置されていた手紙…
サトチーの父親…即ち、パパスの遺した手紙に目を通していたサトチーが口を開く。

それはつまり…その伝説の勇者の話は…

「手紙の内容は真実だと思う。勇者の話も、天空の武具の話も、母さんの話も…」
手紙に記されていた内容は、伝説の勇者の話以外にもう一つ。
魔界に捕われているというサトチーの母親の話。
サトチーの母親を魔界から救出するには、魔界に渡れる伝説の勇者の力が必要。

「僕は世界を廻って天空の武具を揃える。そして、必ず母さんを助ける」
10年の時を跨いで受け継がれた父の遺志。
己の決意を口にするサトチーの目は、あの剣のレリーフの目よりも輝いている。

天空の剣を手にした俺達は、サンタローズを後にしラインハットに向かう。

旅に出ようにも、ラインハット王家の勅命によって、港は封鎖されている。
ただの旅人であるサトチーが開港を嘆願するよりも、王家の人間が間に入ったほうが話も通じやすいだろうというヘンリーの意見。

ただ一つ、気になる事。
巷では王家の評判はすこぶる悪い。
現に、サンタローズの惨状を目の当たりにした後ではその噂も真実味を増す一方。

「ま…王家で何かおかしなことが起こってても、俺様の凱旋で元に戻るだろうさ」
ヘンリーの口調はいつも通り軽いが、その表情はどことなく曇っている。

王家に異変が起こっている事を確信しているんだろうな。

思考を邪魔されるのは、いつも同じシチュエーション。
ギャアギャアと、耳障りな声を上げて迫り来るモンスター達。
「おちおち話してもいられねえな…ピッキーの群れか」
「じゃあ、さっきと同じくヘンリーが後方支援。僕とイサミとブラウンが前線」
「了解。間違っても俺に魔法を当てるなよ」
「ガンガン飛ばしていくからな。イオ!」

もうすっかり日常となった光景。
ヘンリーの放つ魔法の弾幕で怯んだ相手に前線の俺達三人が踊りかかる。

サトチーのチェーンクロスが、ピッキーの丸っこい体に絡みつき叩き伏せる。
ブラウンのフルスイングが、鳥型モンスターを遥か彼方までかっ飛ばす。
そして俺の剣が振るわれた先では、赤い液体と極彩色の羽が舞う。

一つ違うのは、俺の武器。
俺の手に握られているのは『天空の剣』

まあ、俺の存在自体がこっちではバグなんだろうなあ。

その剣は、それ自体が意思を持ち、勇者以外の者には持ち上げる事すら叶わないと言う。
事実、安置されていた剣を手にしたサトチーは、持ち上げるのが精一杯と言った様子で、それを構えて振り回す事など、傍目から見ても不可能である事は明らか。

「参ったな。まるで鉄の塊を持ち上げてるみたいだ」
カラン…と、まるで重さを感じさせない音をたて、剣が地に置かれる。
どちらかと言えば小振りで薄刃の剣は、怪力のブラウンですら持ち上げるのが辛そうだ。

「さて、こんなに重いんじゃあ持ち運ぶのも一苦労だな」
「俺が運ぶよ。サトチー達が自由に動けなくなったら大問題だからな」

情けない話だが、戦闘スキルに於いては俺の存在はパーティーの中で一歩劣る。
肉弾戦に優れるブラウン。魔法戦に優れるヘンリー。総合力で優れるサトチー。
この三名のいずれかが、行動を制限される事は戦力的に大きな損失だろう。

「じゃあ、お言葉に甘えようかな。本当に重いから気を付けてね」

腰をやらないように、しっかりと足を地に付けて柄を両手で強く握る。

持ち上がらなかったとか…恥ずかしすぎるよな。気合入れねえと…

深呼吸を一回…二回…そして、一気に持ち上げる。
「おりゃああ!!……でええぇぇぇぇ!?」

あっさりと跳ね上げられた剣は、クルクルと回転しながら天井まで跳ね上がり、
必要以上に力を込めていた俺は、その反動で後ろに思いきりスッ転んだ。

(゚д゚)<ポカーン (゚д゚)<ポカーン
    ↓ブラウン

一同絶句…

「いやあ、あの時は驚いたね。まさかイサミが天空の勇者?…って」
馬車の前でサトチーがクスクスと思い出し笑いを浮かべる。

きっと、俺の派手な転びっぷりも笑いに一役かってるんだろうな…orz
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