◆Y0.K8lGEMAの物語
兎の耳にアイラビュー[1]
――商業都市オラクルベリー
北方大陸から隔てられた島の中央に位置するこの町は、交易の町として知られている。
東方と西方の大陸の中間に存在するこの島は、貿易船の物資補給の場として発生し、西方大陸の玄関『港町ポートセルミ』〜東方大陸の大国『グランバニア王国』間の海路の中継地点として繁栄した。――
ふーん…交易の町オラクルベリーかあ。道理で商人の姿が多いわけだ。
…さて、この活気溢れる都市で俺達はなぜ途方に暮れているのだろう?
…なぜ俺達は無一文なのだろう?
「………」 びしっ!
「痛!」
ヘンリーのチョップが俺の脳天に叩き込まれる。
はい、チョップの理由は俺自身よくわかっています…
「………」
わかっています。謝りますから何か喋ってください。
謝りますから…(#^ω^)←こんな顔で俺を見つめないで下さい。
「まあ…ね…過ぎた事を責めても仕方がない。問題はこの後どうするかだ」
サトチーの気遣いの言葉の裏に感じる疲労感が重いです。
オラクルベリーに辿り着いた俺達は、武器の新調を考え、武器屋に足を運んだ。
攻撃魔法が使えるサトチーとヘンリーはともかく、近距離戦がメインの俺にとって、武器の性能は死活問題。
(…岩を降らすヤツもマスターしてないし…てか、あれから一度も成功してねえ…)
また、サトチーのチェーンクロスも10年前に買ったという事でだいぶガタが来ており、攻撃魔法が得意なヘンリーも、魔力が尽きた時を考えるとある程度の武器は必要。
てなわけで武器屋に訪れたわけだが…
「う〜ん…全然金が足りないなあ…」
「僕達は脱走した身だからね。何か売れる物あったっけ?」
「売れる物…さっき拾ったハンマーと…俺のブルゾン…結構気に入ってるんだけど…」
結局、ブラウニーが落としたおおきづちと、俺のお気に入りのブルゾンを売っても145Gにしかならなかった。
内訳は汚いハンマーの売値が110G、俺のブルゾンが35G…
『はあ? 下北沢で20000円もした俺のブルゾンが何で汚いハンマー以下なんだよ! 旅人の服? 何だよソレ? どこに目ぇ付けてるんだこの×××が!!』
…と、言いたかったけど武器屋の店主は筋肉隆々の覆面男。逆らったら多分死ぬ。
ガックリと三人で肩を落とす。俺チョット涙目。
コッチの世界ではファッション性よりも、武器防具としての性能が価値基準らしい。
「こうなったら勝負をかけるしかないな」
最初に持っていた500G強と、今の145Gを合わせて700G弱。
この逆境から這い上がる方法は一つしかない。
「いざ行かん。俺達の未来を煌々と照らすあのネオン(カジノ)の下へ!!」
「ほら、止めなかった僕たちにも責任はあるからさ…」
むくれるヘンリーをサトチーが必死になだめる。
スロットには自信があったんですよ。
目押しには絶対の自信があるんでコッチでも何とかなると思ったんです。
世紀末の覇者だって何度も昇天させたしさ。
でも、コッチのスロットは目押しできねえの。自分でビックリです。
…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…
全額カジノのスロットマシーンにつぎ込んで、あっという間にスカンピン。
今夜の宿代も失い、暮れ行く都会の道端で佇む三人。
奴隷労働から逃げ出したと思ったら路上生活者か…世は無常だなあ…
ずっとむくれてたヘンリーは、カバンに入ってたガムをあげたら機嫌が直ったようで、壁に背をもたれてクチャクチャやってる。
緑髪の男が道端でガムをクチャクチャやってる姿はどう見てもDQNだがあえて触れない。
店の主がマッチョな覆面だったり、バニーガールが普通に町を歩いてるような世界だ、町の人もDQNには免疫があるのだろう。
…バニー?
ウサ耳、バニースーツ、フサフサ尻尾、網タイツのバニーを雑踏の中に見つけ、俺の両眼がスナイパースコープのようにその姿をサーチする。
スキャン開始
顔偏差値…70
スリーサイズ…B91 W58 H86
足ライン…規格クリア
衣装ポイント…+500ポイント
総合偏差値…測 定 不 能
戦況…相手は重そうな袋を両手に下げ、さらに大きな箱を抱えている。
結論…
我々は今、このト・キ・メ・キ☆を結集し、バニーちゃんに叩きつけて初めて真の愛を得ることが出来る。あのウサ耳こそ、男達全てへの最大の魅力となる。
俺よ立て! 思案を煩悩に変えて、立てよ俺! バニーちゃんは俺の力を欲しているのだ。
ジーク・バニー!!
アホか俺…って、なんかコッチ見てる…え? 向こうから近付いてきた。
「ねえ。ちょっとだけ私の仕事場に来てもらえないかしら?」
疾風の如くYES。
もうお兄ちゃん君の荷物を持っちゃうよ。
「ありがとう。それじゃあ箱は私が持つから袋をお願いてもいいかしら?」
(心の中で)高く飛び上がり、(心の中で)回転しつつYES。
なにやら食材が大量に詰まった買い物袋の重さも感じないぜ!
「ねえ、あのターバンのお兄さんもお友達でしょ? 一緒に来てもらえないかしら?」
あ…なんだか一気に袋が重くなってきたなあ…
仕事場まで一緒に来て欲しいと言うバニーちゃんの後を、俺たち三人がついて行く。
…俺だけが重い買い物袋を両手に下げて。
「ただいま〜☆」
バニーちゃんの仕事場は町の一角の地下。
中にいたのは…爺さん一人? あれ? 地下バーじゃなかったの?
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