[] [] [INDEX] ▼DOWN

タカハシ◆2yD2HI9qc.の物語

滅び滅ぶ
「メイ!!」

俺はオリハルコンの剣を放り、両手でメイの身体を起こす

「タ、カハシ……」
「すまない…! 俺は、俺は……!」
「ベホマ… 間に合わないの……」
「どうして……?!」

メイの小さな両肩を、ギュッと引きよせる

「ふむ… 愚かな男女よ
 貴様等の絶望と悲しみ、怒りと憎しみは実に良い
 どうなったのか、特別に教えてやろう
 闇の衣の魔力を使い男に幻を見せただけだ
 どうだ、クックッ…
 あっさりと嵌まり、私の代わりに女を斬り続けたではないか!」

幻…!

「その女、闇の衣のおかげで即死は免れたようだが、もう時間の無駄
 だが私は!
 邪魔をしないで見守ってやろう!
 男よ、もう残された時間は少ないぞ?
 早く私に、お前の絶望を味わわせてくれないか! クックックックッ!」

なんて… 冷酷な……!

「タカハシ…」

メイの生きる力が、グングンと小さくなっていくのが感じられる

「メイ、もう喋るな ベホマだ、ベホマをかけろ!」
「もう、だめなの…
 もう、魔法で回復できる損傷度合を越えてしまったの…
 だけど、タカハシのせいでは、ないのよ……」
「ベホマを! ベホ、マを……!」

だめだこのままじゃ…
メイは死んでしまう……!
俺が、俺が、俺が…………!!

「タカ、ハシ… 手を、見せて…」

俺は、心がどうにかなってしまいそうなのをグッと堪えメイの眼前へ、震える手の平を差し出す
その俺の手の平を、メイはそっと弱々しく自分の手にあわせ、言う

「この手が、好き… いつも私を引っ張り守ってくれた手…
 もうこの手を見ることは、なくなってしまうのね……」
「まってくれ まだ、頼むから回復魔法を使ってくれ!
 きっと治る…!」
「これを…」

メイが差し出したのは静寂の玉

「これ、身に着けていて
 私だと思って、連れていってね…」
「バカな事を… 言うな! まだ一緒に、旅をするんだよ!」

メイがフフと笑い、言葉を続けていく

「タカハシがどこから来てなにをしようとしているのか…
 私は夢の中でルビス様から聞いたの
 チゾットで眠っているときにね…
 ずっと、一人で、誰にも言えずにいたんだね……
 そして、ルビス様は私に、タカハシの助けになってほしいって、言っていた…
 私はそう言われたとき、こうなる事も覚悟していたから、だいじょうぶ……」
「そ、そうだルビス! いるなら返事をしろ! メイを、助けるんだ!!」

声は届かず
何も返らない

「聞いて、タカハシ…
 カルベローナの長老は、あなたのその秘められた力を見抜いていたわ…
 私が、ルビス様と約束をしている事も知っていた…
 そして、私の覚悟を感じとった長老はある魔法を、私に授けてくださった…」

よく、わからない
なんでこうなってしまった
ルビスはなんでメイに告げた なんでだ
俺はなぜ、メイを斬ったんだ
そうしてなぜ、メイが死ななきゃならないんだ─

「う……! タカハシ、私はそろそろ、この身体を抜けなければならないの…」
「抜けるって、どういう」
「わからない… だけど安心して、私があなたを守るから…
 一緒に旅が出来て楽しかった、本当に会えてよかった…
 もっと一緒に旅したかったけど、ここまでなの ごめんね…」
「そ、んな そん、な事…」
「一つだけ約束… あなたが元の世界へ戻ることが出来て…
 私が生まれ変わって、もし目が覚めたらあなたの世界の人間だったら…
 また一緒に……」

メイが目を瞑り、少しだけ集中する

「さようなら、タカハシ あなたは何一つ悪い事なんてないの
 私、とっても楽しかった…
 そしてこれが、長老から授かった究極の魔法…」
「ま、待ってくれ、俺は─」

メイが、俺の手をギュッと握る
腕組みをしたまま俺達を傍観するゾーマを見つめ、小さくつぶやいた


「マダンテ」


刹那、俺はメイの身体と共に吹っ飛ばされ
ゾーマを真っ白な空間に閉じ込め
その空間の中はまるで
小さな宇宙が誕生するかのごとく
混沌と
暴々と
恐々と
眩しく輝きあたり一面、影が焼き付いてしまうほどにグウグウゴウゴウ瞬き
やがて小さく収縮し、消えてしまった

「クッ…… ! メイ─」

俺のそばでぐったりとするメイは
赤色が無くなり魔力も感じられずただ 横たわるだけの動かない存在

「メイ? 死んだ、のか?」

棒のように真っ直な言葉が、口をついて出た
そうして、メイの頬へ手を触れようとしたら、ボッと青白い炎に包まれ粉のように消えるその脱殻
何が起きたのか 頭は"わかる"と言うけれど、心が"わからない"と叫んだ

「フフッフッフッフ………」

ぼんやりと、そのおかしな笑い声の方向へゆっくり体ごと向けると、マダンテに包まれ収縮し消えたはずのゾーマ
ゾーマは、ボロになったマントを引き摺り、近付いてくる

俺にはもう抵抗する気力なんて ない
メイが 死んでしまったんだ

「おもしろい事をしてくれたではないか…!
 マダンテを使えるとはな…
 おかげで闇の衣は消滅し、私自身も傷を負った 時間をかけ癒さねばならない
 知っていたか? その魔法は術者自身の命を燃やし、相手を滅ぼす魔法なのだ
 その女が消え去ったのはマダンテの効果、そして殺したのは」

不敵なゾーマは、力強い声で─

「お前だ!!」

俺が? まさか…

「惜しい魂を失ってしまったが…
 結局は我が力となるであろう、我が世界でゆっくりとな」

ゾーマの言葉を、ただただ、聞くことしか、しない

「男 おまえの力、十分に使える
 ルビスの力を持つお前は殺そうと思っていたが…」

ゾーマは右腕を俺へと伸ばし

「お前は弱いルビスの遣い 今からルビスではなくこの私の為に、その魂を、捧げ続けよ……」

離れた所には、輝きを失ったオリハルコンの剣
手を伸ばせば届くのだが、頭に置かれようとするゾーマの鋭い爪を伴った手を俺は、少し見上げ自ら受け入れた




メイは死んでしまった
ルビスのせいか?
いや… ゾーマの言う通り俺だ
俺の手で、その命を殺した

彼女が好きだと言った、この手で………





意識は次第に薄れていき、グイと、"我が世界"へ引き込まれて─
そのまま、永遠に眠ってしまいたいと、願った──




タカハシとメイ、そしてゾーマの姿は グランバニアの南から完全に消え
残されていたのは泥だらけの 立派な剣だけであった


それから57日後
世界は 魔王ゾーマにより全ての町を滅ぼされ
少数の人間が隠れ住む 荒れた廃地となる


〜 第三部 完 〜
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2006-AQUA SYSTEM-